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■ □ ■ □



「ただいま〜」と家の玄関を開ければ、ママがすごい勢いで飛んできた。


「おかえり!!キイチさんとのお泊まりどうだった??ねぇねぇ、どうだった??」

「ちょっ、ママ、落ちついて!!」


熱烈なハグと質問攻めをするママ。
そんなママを宥めて、ひとまずリビングへ。貰ったお土産を広げながらこの週末の出来事を順々に話した。


貴一さんと大人のキスをしたこと。

ビーフシチューを一緒に食べたこと。

夜は寝オチしてしまって何もなかったこと。

貴一さんが実は社長さんだったこと。

さらに、フルカワの御曹司であったこと。

高坂歩美さんのこと。



……ママは私の話をどれもひとつひとつ丁寧に聞いてくれた。



「恋って、案外いいものでしょ?」

「うん。ママがお父さんにメロメロだったのも、今ならわかる気がする」

「そうでしょう?恋って素敵なの!」

そう言ってママは微かに頬を染めながら目を伏せた。今はいないお父さんのことを思い出してるのかもしれない。



(ママとお父さんが恋したから、あたしが生まれたんだよね……)


その"恋"の部分を身を以て理解した今は、その事実に、恥ずかしいような嬉しいような不思議なむず痒さでなぜだか胸がいっぱいになる……。



「キイチさん、社長さんなのよね」

「うん」

「奈々子はやっぱりあたしの娘ね」


ママがそう言ってくしゃくしゃと乱暴に私の頭を撫でる。


私のお父さんも、どこかの偉い社長さんだったらしい。それも、ママよりうんと歳の離れたおじさんだったらしい。

詳しくは教えてもらえないけれど。
それはまるで今の私みたいだ。

決して幸せだったとは言えないはずなのに、それでも素敵な恋だったと笑うママは本当にすごい。



「ママは、どうやってお父さんを口説いたの?」

「簡単よ。

押して、押して、押し倒したの」


にっこりと笑うママ。

その綺麗な微笑みに、我が母ながら恐ろしくなる。



「あたしは、押し倒すとか無理だよ」

「じゃ、押し倒されちゃいなさい」




やっぱり私のママは最高だ。

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