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その夜。
貴一さんから電話があった。
『今日は色々と巻き込んでごめんね』
「あたしは全然平気ですよ。むしろ、お土産ありがとうございました。
貴一さんこそちゃんとお仕事して下さいね?くれぐれも皆さんにご迷惑かけないように」
『奈々ちゃんがそう言うならそうする』
私の言葉に貴一さんがくすりと小さく笑う。電話越しにその吐息がこちらにも伝わってきそうでドキドキした。
『あと、陸君には僕のこと内緒にしててくれるかな? 社長とかそんな立場を忘れて陸と友達してるの楽しいから』
「うん。わかった」
陸には内緒か。
てことは、澪にも内緒にしなきゃ。
ママにはもう話しちゃったけど、大丈夫よね。たぶん。
「貴一さん、今夜帰れるの?」
『うん。今家に居るよ。ビーフシチューの残りも美味しく頂きました』
電話越しににこりと笑ってるのが想像出来て、きゅんと胸の奥が幸せな気持ちになる。
膝に乗せていたふわふわのクッションをきゅっと抱き締めてドキドキも一緒に抑え込む。
『明日からびっしり仕事だけどね』
付け加えるように貴一さんがそう言って笑う。私もつられて苦笑い。
これまで社長さんのお仕事サボってたんだから、自業自得と言ってしまえばそれまでだけど。
「お仕事頑張ってください。
あ!でも、お仕事で忙しくなっちゃったらもうご飯食べ行けません?次いつ会えます?」
『また会ってくれるの?』
貴一さんからは少し意外そうな声。
私から次の約束なんて滅多にしたことなかったから。
私だって実は緊張してる。
「もっちろん!陸への口止め料代わりに、美味しいもの食べさせて下さい!」
『えー、さっそく容赦ないねー』
けらけらと笑う貴一さん。私も一緒になって笑う。
電話越しでよかった。
だって、今きっと顔真っ赤だし。