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「そういえば、期末試験どうだった?」
「よく出来たよ!いつもは一夜漬けなんだけど、今回はみんなで勉強したし」
「みんなで?」
「うん。澪と陸と、あとクラスメイトの雨宮さんって子と、澪のお兄さんとその友達とか、とにかく大勢で」
澪のお家で勉強会をしてたら、ちょうど澪のお兄さんも彼女さんや友達を連れてきていて、いつの間にか先輩グループと一緒の勉強会になった。
1学年上の澪のお兄さんは特に頭が良くて、私もテスト勉強をいろいろと見てもらった。
そのお陰もあって、今回のテストはどれも自信有りだ。
「……でね、澪のお兄さんってほんとに凄いんだよ!」
「ふーん。……妬けるなぁ」
「……へっ?」
ついつい澪のお兄さんの話題になってしまうと、貴一さんがぽつりと呟いた。
私の聞き間違えじゃなければ、"妬ける"て言った。"妬ける"って!!
「や、やけるって、お餅?」
「うん。奈々ちゃんが他の男の話するから」
ぷくっと焼けました。
なんてわざとらしく貴一さんがその形のいい唇をへの字にして頬を膨らませる。
41歳のおじさんの頬膨らませる仕草とか誰得。いや、妙に可愛いから私得か!
「やきもちとか、きーちさん可愛いー」
「まったく、奈々ちゃんは悪い子だね。こんなおじさん誑かしてさぁ」
「こんないたいけな女子高生を誑かす貴一さんのが悪い大人ですよー」
私が言い返すと、口をへの字にしていた貴一さんが耐え切れずに吹き出した。私も一緒になって笑う。
「じゃあ、悪いついでに。もっと悪いことしちゃおうかなー」
そう言って貴一さんが怪しく笑う。
(あれ?この笑顔やばくない?
やばい。この笑顔はやばいやつだ。乙女のピンチ的な)
貴一さんの笑顔に身の危険を感じて、さっきまで笑ってた私も思わず顔を引きつらせる。
そんな私を余所に、貴一さんはにこにこと怪しい笑顔。そのままゆっくりと立ち上がり、部屋の後ろの襖に手をかけた。
スパーンと勢い良く開かれた向こうの部屋には、布団が一組。枕が二つ。
部屋の灯りは小さめな行灯だけで、ムーディな雰囲気を醸し出している。
「えっ、ちょっ」
なにこれ。夕方の再々放送のドラマとかで観たことあるシチュエーションだ。
「一回やってみたかったんだよねー」
貴一さんがへらりと笑う。
「やってみたかったって……」
「悪代官ごっこ 。よいではないかよいではないかーってやつ」
「あ、あくしゅみ……」
「なんなら着物も着てみる?どうせすぐ脱がすけどね」
「ぎゃーっ!!ごめんなさい!結構です!!」