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■ □ ■ □



話は金曜日のあの夜に遡る。


「ごめん奈々ちゃん。また巻き込んでいい?」

「へ?」

放ったらかしにされて布団の上で体育座りしていた私に、電話を終えた貴一さんが困ったように両手を合わせた。巻き込んでいいかって。



「年末年始、僕の実家に来ませんか?」

「へ?」


貴一さんからの思い掛けない言葉に私は両目を見開く。


貴一さんの実家?

それも年末年始に?私が?なんで?



「いやぁ〜、実はね……。

僕の部下の矢嶋って馬鹿が、隠し子発覚とか言って父さん母さんに奈々ちゃんのこと喋っちゃったんだ。

それで正月に連れて来いって」


「いやいやいやいや」


隠し子として貴一さんの実家に挨拶とか。それはない!ありえない!!


矢嶋ってあれか、あの車に乗せられ時私が貴一さんの隠し子って話を間に受けてたお兄さんか。

矢嶋の馬鹿野郎!




「もちろん隠し子って話は冗談だって言ったけど、だったらそのお嬢さんはどこの子だ。どういう関係だって五月蝿くて……。

終いにはなんでもいいから連れて来いって。年寄りってなんでああしつこいかねー」


ああはなりたくないねーと貴一さんが肩をすくめてわざとらしく笑う。

私はあんまり笑えないけど。



「なんでもいいからって……」

「この年まで独身でいるとね。女の子と付き合おうものなら、そろそろ結婚かって周りが勝手に騒ぎ出すんだよ」

「けっ、結婚!?」


貴一さんの話に思わず過剰に反応してしまう。だって、貴一さんが結婚しちゃうとか嫌すぎる。



「年相応の人を連れてったらそれこそその場で結婚させられそうな勢いだよ」


「あ!それであたしに?」


貴一さんの言葉に私はひとり納得する。

なるほど。そうか。

あたしなら嫁候補として連れていってもまだ女子高生。学生の身分だし、すぐには結婚て話にはならないってわけか……。


「あたしが卒業するまでの残りの時間は貴一さんは自由でいられるし……。

卒業しても、あたしに愛想尽かされてふられたってことにすれば、その後も貴一さんは遊びたい放題できるってわけだよね!」


「いや、まぁ、だいたいあってるけど……。

後半のシナリオなんか酷くない?愛想尽かされてふられるとか、遊びたい放題とか……」


貴一さんはなぜか少し不満そうでぶつぶつ言っている。


けど、私の頭のなかは混乱が解けてすっきり。


「いいよ。あたし、貴一さんの婚約者役やります!」



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