1641
貴一さんのメールアドレス。
貴一さんに貰った猫の写真。
それらを交互に確認しては、にまにま。
お家に帰ってからずっとその動作を繰り返すことしかしていない。
うん。まずい。これは重症かも。
相手はうんと歳の離れたおじさんなのに、メアドゲットしただけで頬は自然と緩んでしまうのだから。
嬉しくて、恥ずかしくて、むず痒いような……いろんな感情がせめぎ合って、もう訳わかんなくて。
「うきゃー!」って奇声を上げてベットの上でジタバタ。
そんなことをしていると、ピコンと軽快な音を立ててLINEのメッセージが届いた。
(え、誰!? まさか……っ)
慌ててアプリを立ち上げる。
陸からだった。
貴一さんかと思って少しだけ期待した自分がちょっと恥ずかしい。
陸からのメッセージなんて珍しい。陸の彼女の澪のことだろうかと考えながら画面に目を向ける。
《 貴一さん、バイト辞めるってよ》
「えーーーーっ!?」
まるで桐島が部活辞めるかのように陸から告げられたメッセージに大声を上げてしまった。
《バイト辞めちゃうの!?どうして!?なんで!?》
急いでそう返事を返す。
するとすぐに私のメッセージに既読マークがつく。スマホを握る手がじんわりと汗ばんでいく気がした。
何度も何度も画面を更新して陸からの返事を待つ。
(もぅ~っ、既読つけたんだから早く返事してよ~)
なんて理不尽な要求を心の中で陸に向けて。
《理由とかは聞いてない。貴一さん奈々子と仲良いから一応伝えとこうと思って》
やっと届いた陸からの返信に、がくりと肩を落とす。なんなのよもぅと、やり場のない苛立のような感情が湧いてくる。
せめて、貴一さんから直接聞きたかったな。そうすれば何か諦めもついたかもしれないから。
《そうなんだ~。教えてくれてありがとね。せっかく仲良くなれたのに残念だね~》
そう返事を返して。
ついでにしょんぼりしたアザラシのキャラクターのスタンプも追加して送ってみる。
画面上に横たわるしょぼくれたアザラシ。今の私もまさにこんな感じで、スマホを握りながらベッドにこてんと横たわっている。
ピコン。手の中のスマホからもう一度音が鳴る。
《明日、貴一さんとメシ食べ行くけど一緒に行く?》
「いっ!?」
心臓が飛び跳ねた。
《行く》
返事は早かった。