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ホームに到着した電車に乗り込み、二人掛けの席に座る。
混雑する車内の騒音と。
発車のベルの音がやけに耳に残った。
ドキドキしてる。
隣りに座る貴一さんと少し肩が触れてるから。それとも、このまま遠くまで二人で行くからか。
「窓際、寒くない?」
「平気。景色見るの好きだし」
窓の外は、雪がちらちらと降っている。遠くの方に見えるお家の屋根にはうっすら積もってるみたい。
「そうだ。はいこれ」
「なに?」
「クリスマスプレゼント的な」
ポケットから取り出して手渡されたのは、小さな指輪。
シンプルなシルバーのリングで、真ん中には小さな石が埋め込まれている。とっても可愛い。
「一応、婚約者らしくね」
そう言って貴一さんがかっこつける。
かっこつけるわりには、箱もリボンもないし、こんな電車の中で。
ほんとに女心をわかってないな。このおじさん。
でも、嬉しい。
「サイズぴったりだし。いつ調べたの?」
「ナイショ」
貴一さんがエロく笑う。
おじさんのくせして貴一さんはやたらと色気があるから、こっちもドキドキしてしまう。
(貴一さんのすけべ)
悔しくて心の中でそう呟く。
「それより、気に入った?」
「うん。可愛い。貴一さん、ありがとうございます」
わざわざ用意してもらって申し訳なくて、遠慮しようかなとも思った。
けど、貴一さんからの始めてのプレゼントだし、一応協力してる立場だし、これくらい甘えても大丈夫かなって有難く受け取ることにした。
なので、指輪の価値についてはあえて触れないないことにした。高価なものだったら絶対受け取れないし。
(ジルコニアだよね?……たぶん)
キラリと輝く石を見つめてそう思い込むことにした。
「貴一さん」
「んー?」
「なんでもない」
「なにそれ」
ふふっと私が笑うと、貴一さんも小さく笑った。
なんだか楽しい。
狭い座席も、騒がしくて混雑する車内も。
貴一さんと一緒ってだけでこんなに楽しく思える。
「お弁当も買ってくれば良かったですね」
「そうだね。帰りは買ってこうね」
通り過ぎる景色のいい風景を眺めながらそんなことを話す。
窓辺に置いたミルクティはもうすっかり冷えていたけど、
心の方はぬくぬく温かかった。