1641

終点駅についた頃にはもう13時前。
少し遅くなったけど駅の中にある小さな和食屋さんで昼食をとることにした。


二人できつねうどん。

本当は山菜のお蕎麦が食べたかったけど、貴一さんに止められた。夜、貴一さんちで年越し蕎麦が出るからって。

年越し蕎麦。
その響きに私は胸を高鳴らせた。

だって……


「あたし、年越し蕎麦食べたことない」

「今時の家庭ってそうなの?」


うどんを食べながら話題はお蕎麦。
私の言葉に貴一さんが珍しそうに返す。



「今時っていうか、うちがそういうのやらないだけだと思う」

「そうなの?」

「毎年南の島で年越しだもん」

「えー、奈々ちゃんって実は結構なお嬢様?」

「そうかもねー。お父さんのお仕事、貴一さんと同じで社長さんだもん」


そう答えると、貴一さんの顔が若干引きつった。


「ねぇ、実は本当に僕が奈々ちゃんのお父さんとかだったりしない?お母さんの名前は?」

「大丈夫。貴一さんじゃないから安心して」


私のお父さんが貴一さんだったとか本当に笑えない。だいたい相手はママよりずっと年上だし。名字名前も知ってるから貴一さんじゃないのもわかってる。




「それより、心当たりあるんだ?」


そう悪戯っぽく聞き返すと、貴一さんは聞こえない振りしてうどんを啜った。

本当に狡い大人だ。


(妬けるといえば妬けるけれど、あたしが生まれる前の事だし気にしても仕方ないじゃん)


追求したったて意味ない。
それくらいは私だって理解してる。
貴一さんと私の年の差はどうしたって縮まらないんだから。



「年越し蕎麦楽しみだね」

「奈々ちゃんの分は大盛りにするように言っておきます」


そんな約束をこっそり交わしながらうどんは完食した。


< 52 / 257 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop