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それから駅を出て、バスに乗る。
外は雪景色。今は雪は降ってはいないけれど、あちこちに積もった雪のせいで真っ白に見える。
ちょっと洋館ぽいレトロな古い建物や、街灯が並んでいて、積もった雪がなんだかとってもロマンチック。
レトロで、少し田舎っぽくもある町。
貴一さんの実家の、フルカワの食器や陶芸品がこの町の名物らしくて、あちこちのお店屋さんにフルカワの食器がショーウィンドウに飾られている。
知らない町の風景をバスに乗って見ていると、なんだか本当に駆け落ちでもしてるみたい。
でも、知らないのは私だけで、貴一さんにとってはよく知った風景なんだ。
(ここが、貴一さんの育った町……)
そう思うと、曇る窓ガラス越しに見える町の風景にドキドキした。
「高坂から聞いてる?」
「え?」
唐突に尋ねられて、貴一さんの方を振り返る。隣に座る貴一さんの表情は少し暗い。
「僕の実家のこと」
「……はい」
隠しても仕方ない事だから素直に頷く。
貴一さんは少しだけ困った顔をしていつものようにへらっと笑った。
「んー、まぁそういうことだから。
少し厄介な家だから、なにかあったらすぐ僕に言うんだよ」
「うっ、うん」
貴一さんの言葉に身構えながら頷く。
(やっぱり血で血を洗うようなドロドロの御家騒動がっ!?)
想像しただけでおっかなく思える。
「さ、もうすぐ降りるよ」
言って、貴一さんがバスのブザーを鳴らす。手を引かれて降りた停留所は、「古川」という場所だった。
まさか地名も古川とは。
「家まで結構歩くけど」
そう言って貴一さんが私の荷物を持とうとする。私は慌てて自分の荷物を抱き締めてそれを阻止する。
自分の荷物くらい自分で持つ。
どんな些細なことでも、貴一さんのお荷物にはなりたくない。
「平気だよ。自分で持てるし」
「でも、本当に結構歩くよ?坂道だし、雪で滑りやすくなってるし……」
「へーき!」
そう力一杯言うと貴一さんは少し困った風に笑った。
そうして貴一さんのお家に向けて出発した。停留所のすぐ脇にある大きな坂を登ること5分ちょっと。
坂のてっぺんに到着して驚愕した。
そこにあるのは立派な門に、お城みたいな日本家屋。視界いっぱいに広がっている壮大なお屋敷だった。
しかも、登ってきた坂は横道のない一本道。さっきまで公道かと思ってたけど、どうやらあの坂は私道で。
バスを降りた時から私は古川家に足を踏み入れていたみたいだった。
(想像よりも凄いお家だし……あたしの場違い感ぱない……)
仰々しい門をくぐり抜けると、嫌でも緊張が増していく。
「まずは親父に挨拶しにいかないとね」
「ウ、ウン……」
貴一さんの言葉にぎこちなくこくこく頷くことしか出来ない。
心臓ばくばく。
本音を言うなら、もう帰りたかった。