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「そういうわけで、撤収ー」
貴一さんがそう宣言してさっさと部屋から抜け出した。もちろん私を抱きかかえたまま。
宴会場から聞こえてくるブーイングを背に、貴一さんがすたすたと廊下を歩く。
「ちょっ、貴一さん降ろしてっ」
「だーめ。浮気性なお嫁さんにはお仕置きしなきゃね」
私の抵抗も虚しく。貴一さんはお姫様抱っこをやめる気配はない。しかもなにやら不穏なことを呟いてるし。
そうしてそのまま貴一さんの部屋に連れ戻されてしまったわけで。
「はい、とーちゃく」
貴一さんが愉快そうにそう言い、私を布団の上に落とす。
あれ、なんかこの状況デジャブ。
乙女のピンチ的な……。
「押し倒してもいいんだっけ?」
「なぁっ!?」
ニヤニヤとわざととぼけながら聞いてくるのだから貴一さんは本当に意地悪だ。
そして、どさりと、私が良いとも悪いとも言う前に押し倒される。
「ちょっ、良いって言ってないっ!!」
「でも悪いとも言ってないよね?」
なので肯定とみなして押し倒させてもらいます。と、貴一さんが私を押し倒す。
「そっ、そんなの屁理屈っ、」
屁理屈だと言い返そうとした時にはキスで唇を塞がれていた。
ちゅっちゅと、わざと音を立てて何度も柔らかいキスが繰り返される。それだけで私は怖いくらい感じてしまうわけで。
「奈々子、口開けて」
唇が離れたと思えば、貴一さんがそう言って綺麗な指先で私の唇をなぞる。
しかも、こんな時に呼び捨てだなんて、貴一さんは本当に狡い大人で。
「……んっ」
おずおずと唇を薄く開けば、貴一さんの舌がゆっくりと侵入してくる。その感覚に体が嫌でもゾクゾクと震えてしまう。
もう何度目かもわからない貴一さんとのキスは、怖いくらいに気持が良くて。
微かにアルコールの匂いがした。