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結果。
先に寝ることにした。
(貴一さんごめんっ!)
布団に潜り込み、ぎゅっと目を閉じる。
このまま貴一さんが戻ってくる前に早く寝てしまえばいいんだ。
でも、早く寝ようと思っていても、緊張で上手く眠れない。今日は朝早かったのに、知らない土地に来てとても疲れているはずなのに、全然眠くなれない。
(どぉーしよーっ)
落ち着かなくて布団のなかでもぞもぞ。
壁に掛かった時計の針の音や、宴会場からまだ聞こえてくる賑わいの声ばかり気になってしまう。
(あ〜っ、貴一さん戻ってきちゃうよ〜)
もうわけわかんなくて半泣きになりそう。
すると、廊下を歩く足音が近くで聞こえた。
(やばっ!戻ってきちゃった!?)
貴一さんが戻って来たらしくて咄嗟に息を押し殺す。
寝たふり。寝たふりをしないと……。
「貴一君の婚約者、いい子そうだね。空気も読めるし、結構賢そうだし」
外から聞こえてきたのは、那由多さんの声だった。
「どーも」
那由多さんの言葉にそう返したのは貴一さんの声だ。
足音は二人分。二人はこの部屋に向かってるみたいだ……。
「貴一君て若い子好きだよね。高校生のお友達に、女子高生の婚約者。
……あぁ、そういえば。貴一君と仲が良いっていうあの松嶋家の御令嬢もまだ若かったよね。まだあの子とも遊んでるの?」
「……那由多には関係ないだろ。それ、彼女には言うなよ」
「はいはい」
……ドクン と、
心臓が怖いくらいに大きな音を立てた。
それと同時に体中から熱が引いていく。
(マツシマ……松嶋って……、
『松嶋やよい』と同じ名字、だよね……)
考えるよりも早く、二人の会話に出てきた『松嶋家の御令嬢』とやらは誰なのか察しがついた。
『松嶋やよい』だ。
顔の見えない彼女はここにきても私を苦しませる。いや、苦しませるのは貴一さんの方か……。
御令嬢だなんて言うくらいだから、彼女はきっといいところのお嬢様で。きっと私なんかより貴一さんに釣り合う存在なんだろう。
そう、私なんかより……。