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澪と話していて、貴一さんと私が親子ほど歳が離れていることを改めて気付かれさた。そして少しだけダメージを受けた。
私が貴一さんに向けるこの感情はお父さんという存在への憧れのそれなのかな……と、そんなことを考える。
でもすぐに、貴一さんにお父さんになってもらいたいわけじゃないと結論が出る。
(あーあー、そもそも私の理想の彼氏って、放課後一緒にデートできる様な同級生の男の子なのになぁ……)
それまでの自分の理想の彼氏像を思い浮かべて苦笑い。貴一さんはまったく理想とは離れた存在だから。
お父さんに憧れてて、理想の彼氏は同級生で、それなのにお父さんほど歳の離れた貴一さんに恋してて……、もうこれ一種のファザコンってやつなのかな。
矛盾だらけで、ぐちゃぐちゃな私の心。自分でもよくわからなくなる。私ってこんなに面倒くさかったけ?
人を好きになるというのがこれほど厄介なものだなんて、始めて知った。
「陸君、奈々ちゃん、お待たせー」
放課後。待ち合わせ場所に陸と一緒に行くと、貴一さんは10分遅れでやって来た。
「遅れてごめんねー」
まったく悪びれない様子で言う貴一さん。
「奈々ちゃんも来るって言うからおじさん頑張ってお洒落してたら時間掛かっちゃってー」なんて軽口付き。そんな言葉すらも真に受けそうになって私の心臓は騒がしい。
へらりと笑う貴一さんに、「馬鹿なこと言ってないで早く店行きますよ」と陸が軽く一蹴する。すると、「えー、陸君嫉妬しないでよー」なんて言いながら貴一さんは今度は陸にべったり。
貴一さんは爽やかな顔してとんでもないたらしだ。
そうこうしながら、店までの道を三人で並んで歩く。
陸と貴一さんの会話に時々参加しながら、私は隣の彼をこっそり盗み見る。
制服じゃない私服の貴一さん。
頑張ってお洒落してきたというあれは冗談のつもりだったのかもしれないけど、あの言葉通り今日の貴一さんは一際かっこよく見える。
いや、お店の制服姿もかっこよかったんだけどね。