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「まぁまぁ、ひとまずこのことは置いといて。歩美ちゃん、森川さん、お父さんに挨拶してらっしゃいな。お父さんとっても喜ぶわよ」
そんな藤子さんの号令により、とりあえずこの話は保留となり。歩美さんと先生は、貴一さんのお父さんのところへ挨拶に向かった。
「奈々ちゃん」
「貴一さん、どうしたの?」
「僕、捕まっちゃう?」
そんな馬鹿げたことをしおらしく聞いてくる貴一さんが可愛い。
私が笑って「そんなわけないでしょ」と言うと、貴一さんもパァっと笑顔を浮かべた。
そんなところも可愛いと思ってしまう私は相当重症なんだろう……。
■ □ ■ □
「あけましておめでとー」
夕方になって宴会が始まる頃、酔いつぶれていた男性陣が次々に起き出してきた。
一番最後にのろのろとやってきたのは那由多さんだ。彼は寝巻きの浴衣に寝癖頭のままで登場してきた。
「まったく那由多ったら、だらしないっ!」
藤子さん激おこ。
お父さんの隆雅さんは相変わらずむっつり黙ったままだった。
那由多さんは特に気にした様子もなく、さっそくお酒を呑み出している。
そんな彼を私はついつい見てしまう。
那由多さんは、変な人というか、なんだか気になる人だ……。
「見るの厳禁」
ふいに貴一さんがそう言って、片手で私の視界が塞がれる。
「ちょっ」
「浮気はダメって言ったでしょ」
なんて拗ねたように言われる。
浮気じゃないし、見てただけだし。なに子どもみたいなこと言ってるんだ、このおじさんは……。
「貴一おじさんヤキモチ? 那由多君かっこいいもんねー」
と、和美ちゃんがにまにま。
ヤキモチって……。
どっちかっていうと、小さい子がおもちゃを取られそうで拗ねてるみたいな感じだけど。
(ヤキモチだったらどんなにいいか……)
そんなことを思っていると、目の前に座っている歩美さんと森川先生からは呆れたような視線を向けられる。
本当は付き合ってないと知られてるこの二人に、貴一さんと戯れてるところを見られるのは、とても肩身が狭いしなんだか恥ずかしい。
「というか、本当に社長の隠し子じゃないんですか?」
そして八嶋はしつこい。