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■ □ ■ □



昼過ぎから始まった宴会は夜遅くまで続いた。


「貴一さん、私先に戻ってるね」

大人の人たちに囲まれてお酒を呑んでいる貴一さんはなかなか抜け出せそうになくて、私だけそう言って席を立つ。


「奈々ちゃん、一人で平気?」

「へーきだよ!子どもじゃないんだから」

そう言い返してみるけれど、貴一さんから見れば私も十分子どもなんだろう。
そのことがなんだかモヤっとして早足で宴会場から抜け出した。

お酒を呑んでる貴一さんはなんだか知らない人みたい。まだお酒の飲めない私には、貴一さんが遠くに感じられて胸の奥がぎゅっと苦しくなる……。




しんと冷たい廊下を歩いていると、外では雪が降っているのが見えた。
カラカラとガラス戸を明けて外に顔だけ出して見る。

顔にかかるふわふわの雪が心地よくて、なんだか気持ちいい。ずっと暖かい部屋に居たからかな……。



「なにしてるの」

静かな声が私を呼んだ。

振り返れば那由多さんが居た。流石に二度目なので急なことだったけど驚かなかった。


「雪、降ってますよ」

「そりゃ雪くらい降るさ。冬なんだもの」

そう言って淡々と那由多さんが不思議そうに私を見る。そうか、この辺りじゃ普通のことだもんね。




「……君さ、」

「はい?」


唐突に那由多さんが私を見つめる。
びっくりした。

じぃっと見つめられて、私も那由多さんの目を見つめたまま視線が動かせない。


「なんか、気になる」

ぽつりと。
そんなことを言われた。


「……気になります?」

「うん」

「あたし、そんなに可愛いですか?」

「は?普通だよ」

「ちょっ!そこは、うんって言って下さいよ〜!!」



そう言ってへらりと笑う。
渾身のボケも「普通」と返されたのでちょっぴり悔しい。


那由多さんの言う「気になる」というその言葉は、私自身も身に覚えがある。

彼に対して、私も多分同じ気持ちを抱えているからだ。



「あたしも那由多さん気になります」

「……俺、そんなにかっこいい?」


そう私の真似をする那由多さん。
しかし彼は、同じように「普通」と言い返すには惜しいほどのイケメンさんだ。


だから、

「貴一さん似なところ以外は普通だし」

悔し紛れにそんなこと言ってみた。


すると、那由多さんは一瞬目をまん丸くさせて、すぐに嬉しそうに笑った。

なにがそんなに嬉しいのかはわからないけれど、笑う那由多さんを見て私もなんだかつられて笑ってしまう。


多分、昨日の、初めて目があったあの時から。那由多さんは私の心の奥底で引っかかっている存在だ。

決っして好きとかそういんじゃないけど。なんだか不思議なんだ。





「実は生き別れの兄妹とか」

「それはないですよ。それより、前世で敵同士だったりして」

「あ、それ面白い」


私のアホな思いつきに那由多さんは嬉しそうに目を輝かせる。気になるもの同士なのにロマンチックの欠片もないな。



「ここであったが百年目」

「いざっ」

「神妙に」

「勝負!」


そう言ってエアチャンバラごっこがいつの間にか始まっていたわけで。

冷めた人かと思っていた那由多さんは、案外ノリが良かった。

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