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「奈々子ちゃん、那由多くん、そこでなにをしてるのかな……?」
那由多さんとエアチャンバラごっこしていたら、背後の廊下から貴一さんの声。
その声に私はぎくりと肩を震わせ、エア刀の斬鉄剣(仮名)から手を離した。
……いや、離すもなにもエアだけど。
恐る恐る振り返って見てみれば、そこには爽やかな笑みをにっこにこ浮かべた貴一さんの姿が。
爽やか過ぎて逆に怖いというか……。
狼狽える私をよそに、那由多さんは「逃げるが勝ちでござる」と捨て台詞を残して颯爽と逃げて行った。敵前逃亡なんて武士にあるまじき不届き者だ。
「なーなちゃん、那由多となにしてたの?」
貴一さんが私の腰を抱きながらそう言ってにへらと笑いかける。顔は笑っているけれど、その目はすわってる。
そんな目で見つめられ、なにしてたのと尋ねられる。恐ろし過ぎて私は目を反らせられない。
「……えっ、エアチャンバラごっこ」
思わずそう返す。
馬鹿正直にそんな馬鹿な事を答えた私の姿は、さぞ間抜けだったことだろう。
「チャンバラごっこ?」
「……うん、チャンバラごっこ」
貴一さんからはきょとんとした声。
聞き返されて、頷きながら私は返事をする。なんだこれ恥ずかしい。
少しの間をおいて、貴一さんが堪えきれなかった様に盛大に吹き出した。
「ちょっ!笑わないでくださいっ!!」
(自分は悪代官ごっことか恥ずかし気もなくやっておいて、人のチャンバラごっこを笑うなんてっ!!)
「奈々ちゃんって面白いよねー」
そう言いながら頭に手をぽんと置かれる。ついでにわしわしと頭を撫でられる。
「でもさ、浮気はダメって言ってるでしょ?」
「うっ、浮気じゃないもん」
上目遣いにそう言い返すと、貴一さんが困った様に肩をすくめた。
「奈々ちゃんの小悪魔」
そんなことを呟いて。