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「おはよう」
私の姿を見た隆雅さんがそう静かに言う。貴一さんの様ににこにことしてないせいか、威圧感が凄くて緊張しちゃう。
「おはようございます。……あの、此処でお皿焼いてるんですか?」
私はそう尋ねる。
先程の小火かと思った煙は、小屋の中にあるかまくらみたいな大きな窯から出ているものだった。
昔はこういった窯で陶器を焼いていたのだと、以前貴一さんの会社でお土産に貰った陶器のしおりに書いてあった。
他の小屋も、見える限りでは陶芸の作業場のようだ。
「先代の頃までは此処で造ってたが、今は余所に工場がある」
「そうなんですか」
「これは私の趣味みたいなものだ」
そう言って隆雅さんが口元を緩ませる。
その姿が、いつもの厳格な雰囲気よりも柔らかく思えて、私も緊張が解ける。
「あの、見ててもいいですか?」
「あぁ。どうぞ」
思いきってリクエストしてみると、快く作業場のなかを見せてくれた。
色付けする前の素焼きの状態の綺麗な円のお皿や御茶碗なんかがずらりと置いてある。
これみんな趣味と言うのだから凄い。
初めて触れる陶芸の世界に私は胸を弾ませる。ついつい色々尋ねてしまう私に、隆雅さんはひとつひとつ丁寧に教えてくれた。
「……確か、今日帰るんだったね」
「はい。お昼過ぎには」
Uターンラッシュに巻き込まれないように、二日の今日私と貴一さんと帰る予定でいる。
せっかく古川家の人たちと仲良くなれた矢先のことで、なんだかちょっと名残惜しいけれど。
「……そうか。次に来た時は、奈々子さんもやってみるかい?」
「いいんですか!?ぜひお願いします!」
隆雅さんの言葉に、私は嬉しくて手を叩く。ろくろ回したい!とはしゃぐ私に、隆雅さんも柔らかく笑った。
「不思議なものだな……」
「え……?」
「娘と孫が同時に出来たみたいだ」
言いながらくしゃりと頭を撫でられる。
隆雅さんの大きな手。
ぼろぼろで、皺の深い、職人さんの手だ。
その大きな手に撫でられて、私は顔を見られないように下を向いた。
隆雅さんの言葉に、お父さんのことを思い出して泣きそうになったから……。
ママが昔言っていた。
私が産まれた時。
それなりに高齢だったお父さんは、私を見て「孫と娘が同時に出来たみたいだ」と嬉しそうに笑っていたと。
お父さんの皺くちゃな手で撫でられた記憶は、幼かった私には残念ながら残っていないけれど……、きっと今みたいに優しい温度をしていたのだろう。
そう思うと、胸の奥にじんと温かい気持ちが滲む。
「……嬉しいです。
私も、お父さんとおじいちゃんが出来たみたいで嬉しいです。とても……」
そう言葉を返す。
泣かないように笑顔で。
けど、声は微かに震えてしまった。