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「……此処は冷える。もう戻りなさい」

声で泣いているとわかる私に、隆雅さんは静かにそう言った。見ないように背を向けて。

再び窯に向き合うその背中に頭を下げて小屋から出る。


外へ出ると、辺りを駆け回っていた八太郎が私の方へ嬉しそうに寄って来た。

きゃんきゃんとはしゃいだ声。
しっぽをぶんぶん振って。
その愛らしい姿に心が落ち着いた。


しゃがみこむと八太郎に顔をくすぐったいくらいに舐められる。

そのまま雪にまみれて八太郎と戯れていると、遠くから「奈々子ちゃーん」と声を掛けられた。

見れば藤子さんがこちらに向かって手を振っていた。



「おはようございます」

「おはよう、早いのねぇ。昨日はよく眠れたかしら?」

「はい」


八太郎と一緒に藤子さんの所まで戻ると、藤子さんは微笑ましそうに柔らかくて笑っていた。


「お父さんの窯、見て来たの?」

「はい!凄いですよね、あんなに沢山」

「そうねぇ。でもあれだけあってもきちんとした器になるのはほんの一部なのよ」

「え、そうなんですか?」

「えぇ、一番いい形といい色が着いたものじゃないとお父さん認めないの」


藤子さんの話に、凄いなと感心するばかり。だからフルカワのお皿は価値があるのかと素人ながらそんな事を考える。


「今焼いてるのね、あれ奈々子さんにってお父さんが」

「……あたしに?」

「そう。一番よく出来たの送ってあげるから、使ってちょうだいね」


藤子さんの話にまた泣きそうになる。

口を開けばまた涙が出てきそうなので、こくりと頷いて応えるだけだった。それでも藤子さんは優しく私を見つめてくれた。


「ほっぺこんなに冷たくして。このままじゃ風引いちゃうわ。なかに入りましょ」

そっと頬を撫でられる。

そう促されて家のなかに藤子さんと屋敷に戻ることにした。


残された八太郎は少ししょんぼり。
その姿を見て、また後でもふりに来ようと心に決めた。


「そうだわ、ちょうどお風呂用意してきたところなのよ。ご飯の前に、奈々子ちゃん入ってきたら?」


雪で服や髪がすっかり濡れてしまっていたので、藤子さんのそのお言葉を有難く受け取ることにした。
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