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お風呂から上がり、朝ごはんを食べ終えた時間になっても貴一さんは姿を現さなかった。
直美さん曰く、昨日は夜遅くまで那由多さんと呑んでいたそうで。なので寝てるとしたら那由多さんの部屋なんじゃないかとのことだ。
(昼過ぎに出発の予定なのに、貴一さん大丈夫かな……)
心配になって直美さんに那由多のお部屋まで連れて行ってもらう。
案内された先は、庭の隅にある蔵だった。なんでも、那由多さんは使われてなかったこの蔵を自分の部屋として改装したらしい。
やりたい放題だなあの人……。
「貴一に那由多ー!あんた達いい加減に起きなさいよー」
蔵の大きな戸を開けて直美さんが声を張る。中に入ると、蔵の中がお洒落なワンルームに改装されててびっくりした。
直美さんの声でやっと貴一さんも那由多さんも起き出した。
「まったく、あんたたちは……」
寝起きの二人に直美さんは呆れ顔。
私も苦笑い。
お部屋の中はお酒くさいし、空瓶が幾つも転がっている。かなり呑んでいたみたいで、二日酔いとかになってないか心配。
けれど、
「おはよう奈々ちゃん。昨日は一緒に寝れなくて寂しかった?ごめんねー」
なんて寝起き早々にそんな台詞が吐ける程度に貴一さんは元気だった。
「もう、馬鹿なこと言ってないで起きてください。お昼過ぎには出発するんだから」
そう言って叱りつけると直美さんに笑われた。「貴一ったらすっかり尻に敷かれてるのねー」と。
そうこうして二人を起こして、屋敷に連れて行く。
貴一さんがご飯を食べて身支度を整えるまでは時間があるので、私はその間に八太郎をもふりに行くことにした。
しかし、八太郎の小屋に行ってみると、先約がいた。
「ハチー」
「はちたろー」
そう言って八太郎を囲んではしゃぐちびっ子たち。
親戚の子どもかな?そう思って遠巻きに見ていると、
「あなた、もしかして貴一兄さんの婚約者の奈々子ちゃんって子?」
そんな風に声をかけられた。
声をかけたその人は、ちびっ子たちのお母さんみたいで。藤子さんによく似た美人だった。
恐る恐る頷くと、両手をがっちり握られた。
「私、貴一兄さんの妹の美琴よ。あっちのはうちの子の桜と橘。よろしくねー」
早口でそう挨拶される。
握られた両手は熱烈に握手されてしまう。
貴一さんの妹の美琴さんも、これまた個性が強そうだった。