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和美ちゃんが変態過ぎる件についてはさておき、那由多さんと話をする。
この人から私に電話してくるだなんて、よっぽどのこと。きっと、去り際に伝えてしまったあのことについてだろう……。
『……昼間の話。君も、同じって』
「そのまんまの意味です。あたしも、那由多さんと同じなんです」
そう静かに告げる。
電話の向こうで那由多さんが微かに息を飲むのが聞こえた。
『……貴一君にこのことは?』
「知らないですよ。言えるわけないし……」
そう。言えない。
言えるわけないんだ。
『貴一君のこと、信用ないの?』
微かな沈黙の後、那由多さんはいつもの調子でそう零す。本当のことを打ち明けられないのは信用ないからかと試すように言われ、私も言葉を詰まらせる。
「……別に、貴一さんが信用ないからとかじゃないですよ。あたしが……、あたしが自分に自信がないんです」
たぶん。貴一さんなら那由多さんと似た境遇の私を受け入れてくれるだろう。
けれど、私は私に自信がなくて。
私はそれほど貴一さんに好かれる存在なのかと。私なんかより、貴一さんに相応しい女の人はたくさんいるから……。
『……ふーん、まぁどうでもいいけど』
そう那由多さんがわざとらしく言う。それからちょっとだけ笑って。
『もし、貴一君に捨てられたら拾ってあげるよ。父さんも母さんも、八太郎も、君のこと気に入ったみたいだから』
なんて、冗談目かして言われる。
その言葉に私も思わず笑ってしまう。
そうか。貴一さんの妹になるのか、
いや、叔母さんか。
どっちでも面白いかも。
「うん、捨てられたらね。よろしくお願いします」
そう冗談を返すと、那由多さんも電話の向こうで笑った。
こんなくだらない約束も、私にとってはなんだかとても心強かった。