ヒカリ
振り返ると、結城が立っている。
グレーのジャージに白いTシャツを着ている。
マンションエントランスの光が結城の姿を浮かび上がらせていた。
「あ、あの……」
奈々子は二歩ほど後ずさりする。
「電話から救急車の音がして……窓からも同じ音が聞こえたから、もしかしたらと思って。どうしたの?」
結城は近寄って来た。
奈々子は
「失礼します」
とお辞儀をして、早足でその場を離れようとした。
「ちょ、待って。何かあった?」
結城は奈々子の腕をとり、引き止める。
「この裏のマンションなんだ、住んでるところ。でも今日は同居人がいて、あがってって言えないから。こっちに」
と言って、結城は奈々子を引っ張り、川沿いを歩いた。
しばらく行くと小さな緑地があり、ベンチが備え付けられていた。
「座って」
結城は奈々子に手で促した。