ヒカリ
大通りから少し入ると、静かな住宅地。
大きな木が何本か立っている。
都心であることは変わりないけれど、なぜだか奈々子は実家の緑を思い出した。
並んで座ると、結城は奈々子の顔を覗き込む。
奈々子はうつむいた。
すると結城は奈々子の頬にかかった髪を耳にかける。
彼の指が頬に触り、奈々子は緊張で目を閉じる。
「何があった? 彼氏に嫌なことでもされた?」
「ち、違う。違います。彼はいい人です。本当に。これは私の問題で」
「?」
結城が困惑しているのがわかった。
奈々子は指で唇を触る。
この感触を消したかった。
「キスされたの?」
結城が訊ねた。
奈々子は息をのむ。
「彼はいい人です。私が悪い。納得してたのにいざ……そうなると、気持ち悪くて」
奈々子は思わずそう言った。
「彼の感触が気持ち悪くて、そんな気持ちになる自分にも嫌気がさします」
「初めて?」
奈々子は顔をあげた。
結城が奈々子の目を見つめている。
奈々子は素直に「うん」とうなずいた。
結城は奈々子の唇を触った。
「本当は、とても気持ちのいいものなんだけど」
そいういうと、結城は顔を寄せ、奈々子の頬にキスをした。
彼の唇が頬に触れると、あたたかな感触。
「初めてのキスを、なかったことにしたい?」
「うん」
「じゃあ、そうしよう」
結城はそう言うと、今度は奈々子の唇の端にキスをする。
結城は身体を奈々子に向けた。