ヒカリ


高崎の駅でお昼ご飯をたべ、一時間に一本しか走っていない私鉄に乗り換えた。
結城は興味しんしんという感じで窓の外を見ている。


彼にとってキスは、たいしたことじゃないのだろう。
挨拶のかわりだ。

確かにとろけるような時間だけれど、奈々子の胸には同時にむなしさもこみ上げてくる。


奈々子は溜息をついた。


一時間ほど電車にのって、やっと奈々子の実家の駅に到着した。
かろうじて無人駅ではないが、駅というにはあまりにも簡素な建物。
山と山の狭間にある町なので、空気が淀んだように暑苦しい。


「東京より暑いんだね」
結城が言った。


駅前の商店街のシャッターはほとんど閉まっている。


「お盆だから?」
結城が訊ねたので、

奈々子は「ううん」と首を振った。


空は美しいブルー。
白い雲がゆっくりと流れて、山の向こう側へと消えて行く。
町中にあっても緑の匂いが濃い。
いたるところで蝉が鳴いている。


奈々子は「こっちです」と言って、結城を案内した。


細々と経営しているドラッグストアや洋裁店から、見知らぬ客を見ようと人が出て来た。
女性はたとえそれがおばあさんであっても、一瞬呆然とする。
目の前にいる人物が現実の人なのか、一目じゃ判断できないようだ。


坂をあがり、実家が近づいて来た。
奈々子の緊張もピークに達する。


坂の途中の脇道にそれ、私道にひいてある砂利道をあるく。
道の両側には雑草が生い茂り、大小のチョウチョがふわふわと飛んでいた。


奈々子の家は昔ながらの日本家屋だ。
結城を見ると、二階を見上げている。
二階は奈々子と弟の部屋がある。


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