ヒカリ


本当にどこで聞きつけてくるのか、夜にかけて近所のあらゆる住人が結城を見に訊ねて来た。


「奈々子ちゃん、えらくべっぴんな男の子と帰って来たって?」
「何? 結婚するんじゃないの?」
「モデルさんだって、聞いたけど、本当?」


小学校から高校までの女の子たちは、結城と並んで写真をとった。
結城は嫌な顔一つせず、笑顔で写真を撮りつづけた。


食事を終え、台所で洗い物をしていると、母親がきて「あの人、えらいね」と言った。


「なんで?」

「だって疲れたとか、いやだとか、一つも言わないで、見知らぬ女の子達と話して写真とって。気を使って嫌だろうに」

「そうだね」

「本当に、友達なの?」

「うん、そう」

「まあ、恋人だって紹介されたら、今度は本当かどうか疑っちゃうけど」
母親はそういって笑った。


エプロンで手を拭きながら
「お風呂はいっちゃってください」
と結城に声をかける。

「僕は一番最後で」
と答えると
「遠慮しないで。お父さんもわたしも、温湯のほうが好きだから」
と言って席を立たせた。

「うちは狭いんで客間がないんです。聡の部屋に一緒にお布団をしくんでいいかしら?」

「はい、もちろんです。じゃあ、お風呂お先にいただきます」
結城はタオルを持って、お風呂場に入って行った。


自然と家族がリビングに集まる。


「ありゃ、駄目だよ、ねえちゃん」

「何が?」

「観賞用か何かだよ」

「失礼ね」

「だって男の俺から見ても、恐ろしいほどの美人だぞ。しゃべってるのが信じらんないよ」

「それは否定しないけれど」

「友達なんだろう?」
父親がたずねた。

「うん」

「じゃあ、なんでわざわざこんな田舎になんかきたんだろうな」

「しらない」

「まあ、ちょっとびっくりしたけれど、おもしろいお客さんだった」
父親がほっとしたような顔をしている。

「写真をとってた女の子達の顔見た? 俺、ショックだよ。俺にあんな顔みせたことないよ、誰も」

「そりゃ、あんたには見せないでしょうね」

「とげのある言い方だな」
聡が憮然として腕を組んだ。

< 135 / 228 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop