ヒカリ
本当にどこで聞きつけてくるのか、夜にかけて近所のあらゆる住人が結城を見に訊ねて来た。
「奈々子ちゃん、えらくべっぴんな男の子と帰って来たって?」
「何? 結婚するんじゃないの?」
「モデルさんだって、聞いたけど、本当?」
小学校から高校までの女の子たちは、結城と並んで写真をとった。
結城は嫌な顔一つせず、笑顔で写真を撮りつづけた。
食事を終え、台所で洗い物をしていると、母親がきて「あの人、えらいね」と言った。
「なんで?」
「だって疲れたとか、いやだとか、一つも言わないで、見知らぬ女の子達と話して写真とって。気を使って嫌だろうに」
「そうだね」
「本当に、友達なの?」
「うん、そう」
「まあ、恋人だって紹介されたら、今度は本当かどうか疑っちゃうけど」
母親はそういって笑った。
エプロンで手を拭きながら
「お風呂はいっちゃってください」
と結城に声をかける。
「僕は一番最後で」
と答えると
「遠慮しないで。お父さんもわたしも、温湯のほうが好きだから」
と言って席を立たせた。
「うちは狭いんで客間がないんです。聡の部屋に一緒にお布団をしくんでいいかしら?」
「はい、もちろんです。じゃあ、お風呂お先にいただきます」
結城はタオルを持って、お風呂場に入って行った。
自然と家族がリビングに集まる。
「ありゃ、駄目だよ、ねえちゃん」
「何が?」
「観賞用か何かだよ」
「失礼ね」
「だって男の俺から見ても、恐ろしいほどの美人だぞ。しゃべってるのが信じらんないよ」
「それは否定しないけれど」
「友達なんだろう?」
父親がたずねた。
「うん」
「じゃあ、なんでわざわざこんな田舎になんかきたんだろうな」
「しらない」
「まあ、ちょっとびっくりしたけれど、おもしろいお客さんだった」
父親がほっとしたような顔をしている。
「写真をとってた女の子達の顔見た? 俺、ショックだよ。俺にあんな顔みせたことないよ、誰も」
「そりゃ、あんたには見せないでしょうね」
「とげのある言い方だな」
聡が憮然として腕を組んだ。