ヒカリ
「なんのおかまいもしませんで」
母親が玄関で頭をさげる。
「いえ、突然押し掛けたにも関わらず、いろいろしていただきましてありがとうございました」
「また近いうちに帰るね」
「うん」
母親がうなずいた。
父親は黙って母親の後ろに立っている。
「じゃあね」
奈々子は家族に見送られ、砂利道を歩き出した。
私道を出て駅の方向へ坂道を下る。
今日も暑くなりそうな予感だ。
すると鞄から携帯の音がなった。
みると聡から。
「忘れ物かな?」
奈々子が電話に出ると開口一番「うそつき」と言われた。
「は?」
奈々子は立ち止まり首をかしげる。
結城も振り返り立ち止まった。
「友達じゃないじゃん」
「え?」
「襖って、よく聞こえるんだぜ」
「! ねえ、お父さんとお母さんには黙ってて」
「言わないけど……だまされてるんじゃないか?」
「わかんないの。本当に」
「まあ、いいや。気をつけて帰れよ。須賀さんにもよろしく。あんまり姉貴を泣かすなって、弟が言ってたって言えよ」
「うん」
「じゃあ」
電話を切ると、結城が「どうしたの?」と声をかける。
奈々子は「なんでもないです」と首を振ってから、再び歩き出した。