ヒカリ
なんて、かわいい人。
奈々子は、お店の前で立っていた男性をみてそう思った。
「もしかして肉まんの子?」
拓海は奈々子の顔をみて、結城に確認を促した。
「うん」
結城はうなずく。
二人で奈々子のことを話していたのだろうか。
なんだか気恥ずかしい気持ちになる。
上野駅についた後、結城は
「拓海とごはん食べるけど、一緒に食べる?」
と誘った。
奈々子は疲れていたけれど「うん」とうなずいた。
正直、どんな人と住んでいるのか、気になった。
「個室予約できなかった」
拓海が言うと結城は
「気になる?」
と聞き返した。
「別に、いいよ」
拓海はそう言うと、三人は半地下にあるお店に入って行った。
薄暗い店内。
カウンターが数席と、奥に個室がいくつか。
それからテーブル席が三つほどある。
カウンター奥には焼酎の瓶が並べられており、筆で書かれたメニューが各テーブルに置かれている。
割と庶民的なお店のようだ。
三人は一番奥のテーブル席につく。
結城は奈々子の隣に座った。
「何飲む?」
拓海がメニューを見ながら訊ねる。
その仕草があまりにも可愛くて、奈々子は驚いた。
ちいさな子供みたい。
「ビール」
結城が言う。
「奈々子さんは?」
「じゃあ、同じで」
奈々子はそう言った。
「俺は、カシスソーダ」
拓海の口から「俺」という言葉がでるのを、信じられないような気持ちでながめる。
オーダーをすませると、拓海はまじまじと奈々子をながめる。
それから結城を見て
「どこ行って来たの? 旅行?」
と訊ねる。
「群馬」
結城が答えた。
「温泉?」
「いや、奈々子さんの実家」
「は?」
拓海は口をあける。
奈々子はその常識的な反応に少しほっとした。
「……結婚するの?」
拓海は警戒しつつそう訊ねる。
「いえ、違います」
奈々子はあわてて首を振る。
「じゃあ、なんで?」
「ごはんがおいしいっていうから」
結城は平然とそう言った。
「迷惑だったら、迷惑だって言っていいんですよ」
拓海は奈々子の目を見てそう言う。
奈々子は曖昧に笑い返した。
「家族、みんなそっくりなの」
結城が言う。
「へえ」
「いいご家族だったよ。親切にしてくれた。」
「ふうん」
「須賀さんは誰に似てるんですか?」
奈々子がたずねる。
「おふくろ」
「きれいだよ、おばさん。華やかで」
「じゃあ、拓海さんは?」
「僕?」
「誰に似てるんですか」
奈々子が訊ねた。
すると、ちょっとの間があく。
拓海の顔がほんの少し陰る。
でもその影は一瞬のうちに消え去った。
「母親かな」
「へえ」
奈々子はなんだか微妙な気持ちになりながら、そう答えた。
「うち母子家庭だったから、父親の顔わかんないんだ」
「そうなんですか」
奈々子は
「もうこれ以上は聞かないでほしい」
という雰囲気に口をつぐんだ。
「結城と付き合ってるの?」
拓海がたずねる。
「奈々子さん、彼氏いるから」
結城が運ばれて来たビールに口をつけて言った。
「じゃあ、ますます一層、迷惑だったでしょう?」
拓海は心配そうに言う。
「はあ」
奈々子は気まずくなって下を向いた。
「また下向いてる」
結城が言う。
「顔あげなって。かわいいんだから」
それを聞いて更に奈々子は下を向いた。
拓海はとがめるような目線を結城に向ける。
結城はそれに気づかぬ振りをして、ビールを飲んでいた。