ヒカリ
二十一
今週末から九月に入る。
ゆきは不動産屋で新しい家の鍵をもらった。
ゆきの首の跡が黒ずんで見える。
痛々しい。
幼稚園には正直に全部話した。
元カレからの連絡はない。
警察に連絡することは、ゆきの希望でしていない。
このまま何事もなく終わってくれればいいと、拓海は心からそう思った。
まだまだ暑い。
空を見上げそう思った。
蝉も相変わらずうるさいし、空は真っ青で高い。
デニムにプリントシャツ、平たいサンダルというラフな格好で、ゆきはうれしそうに鍵を見つめる。
駅からは少し遠いけれど、新しくてきれいなアパート。
幼稚園のある駅から二つ。
「自転車が欲しいな」
ゆきが言う。
「自転車で通えちゃう」
アパートの前にはすでに引っ越し業者の小型トラックが止まっていた。
「ありがとうございます」
ゆきは弾むようにトラックに走りよった。
アパートの二階。
真ん中の部屋。
コンクリートの外階段を上る。
鍵を開けると、新しい匂いがした。
六畳一間のワンルーム。
作り付けのクローゼットがある。
以前の部屋よりも太陽が入って明るい。
トイレとバスルームは一緒だし、エアコンはついていなかった。
そこが残念だったけれど、これ以上の家賃は出せそうになかった。
若い二人の引っ越し業者が、荷物を運び込んだ。
あっという間にワンルームは満杯になる。
一人暮らしの荷物はそれほど多くない。
作業終了のサインをして、引っ越しは無事終了した。
「荷物が入る前に、お掃除すればよかった」
ゆきが腕をくんで、溜息をついた。
「しょうがないよ。とにかく荷物ほどいちゃおう」
拓海は言った。
二人は汗をかきながら荷物をとく。
これも二人でするとあっという間に終わってしまった。
「思ったより、早く終わりましたね」
ゆきが言う
「拓海先生が手伝ってくれたから。ありがとうございます」
「うん」
拓海は頷いた。
冷蔵庫の電源を入れる。
ブウンという音がした。
「アイスとジュース買って来て、中に入れましょうよ」
ゆきがうれしそうにいった。
「他のものはいいの? お肉とか野菜とか」
「それは、そのうちに」
ゆきがにこっと笑った。