ヒカリ
二人で近くのコンビニに買いに出る。
スーパーは徒歩で十分ほど。
コンビニはその半分の五分だ。


「便利なところですね」
ゆきは本当にうれしそうだ。


ゆきとの関係はあいまいなままだ。


ゆきは特に何も言わない。
拓海はそれに甘えてしまっていた。


拓海は自分を逃げ腰で、卑怯者のように思う。
ゆきに優しさだけをもらって、自分は彼女に何も返していない。
キスをして、セックスをして、でも付き合っているわけじゃない。

ひどい男だ。


もしゆきに新しい恋人ができたら。

彼女を渡したくないという気持ちと、そうなれば安心できるという気持ち。


いずれはちゃんとしなくてはいけない。
それはおそらく「別れ」という形になるだろうけど。


そのときを想像して、拓海は胸が痛くなった。


「とんぼ!」
ゆきが指をさす。

「秋ですねー」


コンクリートの階段を上る。

「ふう」
ゆきが大きく息を吐いた。
「階段って疲れる」

「ここ、二階だよ? そんなにたくさん昇るわけじゃないのに」

「ですよね。年とったかなあ」
ゆきが笑った。

「ゆき先生が年とったなら、俺はおじいちゃんだよ」

「そっか。先生、もう二十七だった。高校生みたいな顔だから、気づかなかった」


玄関を入ると
「アイスアイス」
とゆきがレジ袋を覗き込んだ。


自分のアイスを手に、ベッドの上に座り込む。
ゆきは再び「ふう」と溜息をついた。


「どうしたの?」
拓海はゆきの隣に座って、顔を覗き込んだ。

ゆきは首を振る
「大丈夫ですよ。なんかちょっと疲れちゃっただけで」

「慌ただしかったからね」

「他人の家って気を使うんですよね。シャワー浴びたあとに裸でゴロンってできないし、好きなテレビも見らんない」
ゆきはアイスの袋を破った。

「そうだよね」
拓海もアイスの袋を破った。

ゆきはラムネ味のアイスをかじる。
「わたし、昔からこのアイスばっかり食べてました」

「俺も。安いし、アタリがよく出るんだ」

「すごい。運がいいんですねー。わたしはいっつもはずれ」

「ほら」
拓海は案の定アタリを引いて、得意げにゆきに見せた。

「本当だ! びっくり。わたしのは……はずれ。ああ、もう!」
ゆきは頬を膨らました。

窓から風が入ってくる。
日差しがあたらなければ、夏ほどの息苦しさは感じない。


ゆきは目を閉じて、風を感じている。

唇に笑みを浮かべて。


艶のある肌。
抱くと白い肌は徐々に上気してピンク色にそまる。
身をそらす彼女を思い返して、拓海はあわててその姿を消した。


「先生、いまエッチなこと考えてたでしょ」
ゆきがアイスの棒を口にくわえて、意地悪そうに言った。

「考えてないよ」

「うそ。だって、顔が赤いもん」

「ほんと?」

「ほんと」
ゆきは拓海の膝にまたがり、拓海を押し倒し見下ろした。


拓海はその大胆な行動に、また顔が赤くなるのを感じた。


「ほら」
ゆきが笑う。

ゆきは拓海のおでこにキスをした。
「拓海先生、今日泊まってく?」


拓海はゆきの顔を見上げた。
彼女が自分に何も求めないのが、いじらしくて、申し訳なかった。


「どうしたの?」
ゆきが首を傾げる。

「ゆき先生が何も言わないから」

「何もって?」

「だって、俺……」

「言ったら、終わっちゃうでしょう?」
ゆきが笑う。


拓海は黙り込む。
ゆきは全部わかっている。

「こうやって先生と過ごして、楽しくて、幸せだから、今を楽しむんです。余計なことは考えないの。余計なことを考えちゃうと、今がつまらなくなっちゃうし、幸せが逃げちゃう」
ゆきが微笑む。

「流れにまかせる。そのときがきたら、そのときに考える」

ゆきはもう一度拓海のおでこにキスをした。
「それで、今日泊まります?」

「……うん」
拓海は頷くと、ゆきの頭を引き寄せキスをする。


それから今度は彼女をベッドに押し倒した。

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