ヒカリ
紗英が改めて奈々子の方を向く。
足を組み替える。
わざと大きめのシャツを着て、インナーのタンクトップを見せている。
細い指には大振りな石のついたリング。
本当にファッション雑誌から飛び出て来たようだ。
「この間は、ごめんなさいね」
紗英があやまる。
「? なんかありましたっけ」
奈々子は首をひねった。
「結城を誘ってもいい? なんて聞いちゃった。結城のことが好きなら、そう言ってくれればいいのに。奈々子さんにひどいことしちゃった」
「あの、それはぜんぜん大丈夫です。あのときは、わたしもよくわかってなかったし……」
「結城がフリーに戻るときまでは、もう絶対に声かけたりしないから、安心して。私も彼氏いるし」
「!? そうなんですか?」
「まあね」
紗英がすましてそう言った。
奈々子の常識からはちょっと外れている。
やっぱり外見が特別な人は、ちょっと人と違うんだろうか?
奈々子はそんな風に思った。
「それでね。今日は奈々子さんにお願いがあるの」
「なんですか?」
「結城のモデルしてた頃の写真って、見たことある?」
「ちらっと、一度だけ」
奈々子はそう言った。
紗英はバッグからスマホを取り出すと、少し操作をしてから奈々子に見せる。
そこには結城と紗英が並んでポーズをとっている写真があった。
「これね、初めて雑誌の見開きページに掲載されたときの写真」
「紗英さん、すごくきれいです」
奈々子は思わずそう言った。
「ありがとう」
紗英はそう言うと、違う写真を次々と見せる。
いずれにも結城が写っていた。
「カメラマンに好かれてたんだ。結城はカメラマンが何を望んでいるかよくわかっていて、いつも期待通りの写真がとれるの。彼の雰囲気。表情の作り方。彼が現場にいるみんなを巻き込んで、そこがスタジオだってことを忘れさせる。社長も、スタッフも、彼が一流のモデルになるって、確信してた」
「へえ」
「彼と恋人の設定で写真を撮るとね、本当に錯覚する。夢を見せるのよ。期待したこともあったんだけどね……」
紗英はそういって、残念そうな顔をした。
「あの人は、手に入らない人だった。まあ、わたしは今彼氏と幸せだから、ぜんぜん気にしてないけどね」
紗英はそう言ってきれいな笑顔を見せる。
「結城に戻って来てほしい。社長はそう願ってるんだけど、結城は絶対に首を縦に振らないわけ。自分でもモデルの仕事が適職だってわかってるはずなのにね。なんでだろ」
「そうですね」
奈々子も確かに不思議に思った。
「奈々子さんは特別な人よね。あなたの言うことならちょっと耳を傾けるかもって思うんだ。だからさ、それとなく勧めてみてくれない?」
奈々子は曖昧にうなずく。
結城の嫌がることはしたくなかったが、紗英が言っていることもよくわかった。
結城の写真。
確かに目を引く。
ユニクロのデニムを着ていた結城を思い出した。
同じ洋服でも、彼が着ると特別なものに見える。
「話しはそれだけ」
紗英が言う。
「行こっか」
紗英が立ち上がった。
お店の前で紗英と別れる。
物腰もきれいで、なおかつ性格もいい。
そんな人が世の中にはいるんだな。
紗英はとびきりの笑顔で去って行った。