ヒカリ
エレベーターが静かに動き出す。
狭い空間に二人立つ。
意識して結城との距離をあけた。
六階に到着し、扉が開く。
相変わらず大きな雨音が聞こえる。
通路にまで斜めに雨が降り込んでいる。
結城は奈々子に雨がかからないよう自分が外側を歩いた。
突き当たりの部屋。
結城がポケットから鍵を取り出す。
その指が長く、
美しい。
奈々子は目をそらした。
扉を開け「どうぞ」と結城が言う。
心なしか結城の声も緊張しているように感じる。
気のせいだろうか。
玄関の電気をつける。
タイル敷きの玄関。
二人分の男性物の靴が並べられていた。
「待って、タオル持ってくる」
結城はそう言うと、部屋にはいっていく。
突き当たり、リビングの電気がつき、しばらくすると白いタオルを持ってきた。
「ふいて」
結城は半ば乱暴とも思えるようにタオルを押しつけた。
奈々子はタオルに顔をつける。
柔軟剤は使っていない。
固くて、でも清潔な匂いがした。
「おいで」
リビングから声がかかる。
奈々子はサンダルを脱いで、部屋にあがった。
入ると目の前にベランダ。
左側にカウンターつきのキッチン。
ベランダ側に大きな革張りのソファと緑のラグ。
大型のテレビがソファの向かいの壁沿いに置かれていた。
テレビのすぐ隣に扉がついていて、結城はそちらに入って行った。
何やら扉を開ける音がする。
それから白いTシャツとカーキ色の短パンを持って来た。
「サイズ合うといいけど」
結城は奈々子に手渡し
「シャワー使う?」
と聞いた。
奈々子は慌てて首を振る。
結城は
「じゃあ、そっちで着替えて」
と言って、キッチン奥の扉を指差す。
奈々子は素直にそちらに入って行った。
バスルームの電気をつける。
右手の洗面台には男性物の化粧品やひげ剃りが置いてある。
奈々子は扉を締め、迷ってから鍵を閉めた。
大きく深呼吸をする。
緊張で息ができない。
苦しかった。
奈々子は服を脱ぎ、タオルで拭く。
自分の姿が洗面所の鏡に映った。
白いそろいの下着をつけている。
下着まで濡れてしまっていたが、これを着替えることはできない。
紗英のスタイルを思わず思い出して、あわてて頭を振ってその映像を消した。