ヒカリ
家に帰っても、誰もいない。
リビングの電気をつけ、ソファに鞄を投げた。
ここ最近、毎晩結城が遅い。
ついこの間まで、仕事が終わればまっすぐ帰って来て、一緒に夕飯を食べたりもしていたけれど、それもめっきりなくなった。
誰かと食事をして、おそらく誰かを抱いて帰ってくる。
また女の子と遊び始めたのだろうか。
いや、違う。多分奈々子だ。
奈々子の姿を思い出した。
肩までのストレート。
優しげで、控えめ。
顔立ちはどちらかというと大人びていて、でも笑うと可愛い感じだ。
身長は拓海より少し小さいぐらい。
結城と並ぶと随分と身長差がある。
これまで結城が連れていた女性とは、まったく違っていた。
華やかではないし、普通だ。
あんな感じの子は、周りを見回せばたくさんいる。
結城はどんなつもりなんだろう。
拓海は奈々子が心配だった。
結城が女性と別れるとき、端から見ていても怖いほど、すっぱりと連絡を絶つ。
激しい拒絶だ。
結城は電話に向かって
「俺が終わりって言ったら、終わり。もうかけてくるな」
と冷たくつきはなす。
あんなことを言われた女性は、随分と傷つくに違いない。
結城も拓海と一緒で、自分の領域を犯されたくないのだろう。
この暮らしを崩壊させるような付き合いはしない。
ゆきとの関係を考えた。
ゆきがこの暮らしを壊すことを望んだら、拓海はゆきをもっと未練なく手放せる。
ここは大切なシェルター。
失う訳にはいかなかった。
拓海がなんとかバランスを保てるのも、ここに入れば安全だと言う気持ちがあるから。
他人が踏み込むことのない、聖域。
ゆきはこの一週間、引っ越しの疲れとストーカー騒ぎの心労で、ぐったりしていた。
無理もないと思う。
新しい家が決まって安堵したとたん、その影響がでてきたのだろう。
拓海は毎日ゆきを家まで送る。
部屋にあがることもあったが、つらそうな彼女を気遣ってそのまま帰宅することが多い。
あんまりつらいようだったら、病院にいくようすすめてみようか。
ソファに座ってぼんやりとそんなことを考えていると、玄関の鍵が開く音。結城が帰って来たようだ。