ヒカリ
「おかえり」
拓海が言う。
「今日早いじゃん」
「ただいま」
結城はそう言うと、自分の部屋にまっすぐ入る。
着替えをすませて、部屋から出て来た。
いつものジャージ姿だ。
「腹へった」
「食べてないの?」
「今日は残業だったんだ。なんかある?」
「さあ」
拓海は立ち上がり、冷蔵庫をあける。
何もない。
それから冷蔵庫脇の棚を開いた。
「カップ麺あるよ」
拓海が言った。
「それ食べる」
結城が立ち上がった。
結城は電子ポットに水をいれ、コンセントを入れた。
しばらくすると水が沸騰する音が聞こえて来た。
「今日はデートじゃないんだ」
拓海は冷蔵庫からジュースを取り出しながら言った。
「ちがう。俺の仕事がおわんなくて」
「奈々子さんと付き合ってんの?」
「うん」
結城はちらっと拓海を見ると、気まずそうに目をそらした。
「彼女のこと、責任持てないだろ?」
拓海が訊ねる。
「責任って?」
「彼女は今までの子とは、タイプが全然違う。わかってるだろう?」
「うん」
「彼女、きっと泣く」
「……うん。かもな」
結城はカップ麺にお湯を注いだ。
拓海は結城に話しかけながら、自分にも同じことを言っているのだと悟る。
ゆきはきっと泣くことになる。
結城はお湯の入ったカップ麺と箸を持って、テーブルに移動する。
拓海もジュースの入ったコップを手にソファに移った。
ソファの上に足をあげて、あぐらを組んだ。
「別れろって言ってる?」
結城が箸でカップ麺のフタをたたきながら訊ねた。
「……そこまでは言えないけど」
拓海は心臓をつかまれる。
結城は箸を投げるように置いてうなだれる。
「わかってるんだけど、気になるんだ」
拓海はジュースを一口のんだ。
「笑ってるとうれしいし、落ち込んでると俺なんかしたかな? って気になる。男と一緒だと腹が立っていらいらして、他の奴に触られたりだとかされたくないって思う」
「お前嫉妬深いんだな」
拓海は半ば驚きながらそう言った。
「案外ね」
結城は笑って、カップ麺のフタをとった。
人工的なスープの香りが漂う。
カップの中身を箸でかき混ぜながら
「いつか別れるかもしれないけど、今は無理」
と言った。
「……そうか」
拓海は頷いた。
今は無理。
ゆきとも離れられない。
でもそれでいいんだろうか。
「ちょっと食べさせて」
拓海が手を伸ばすと、結城がカップ麺を手渡した。
「おい、食べ過ぎ!」
拓海が食べるのを見て、結城が抗議の声をあげる。
「もう麺がないじゃないか」
「お前の体調管理に協力してやったんだ。深夜のカップ麺なんか健康に悪いだろ?」
拓海がからかうように言うと、結城が憮然とした表情でスープを飲む。
ここはシェルター。
失うことはできない。