ヒカリ
空を見上げた。
濃紺の空に、ぽつっと星が出ていた。
都会の真ん中、コンクリートに埋め尽くされたこの場所でも、秋の虫が泣いているのが聞こえた。
霞と並ぶと、彼女の方が少し背が高い。
二人の手は冷えきっている。
ニットの編み目から彼女の腕が透けて見えた。
視線に気づいて霞が拓海を見る。
笑った。
人はなぜ自分を蔑むとき、救いようのない、くだらなくて、愚かなことをしたがるのか。
拓海がしようとしていることは、何の解決にもならない。
ゆきを傷つけ、そして自分を傷つける。
「どうして今夜は、そんな気分になったの?」
霞が訊ねる。
彼女のヒールの音が、夜道に響く。
住宅街を抜けて、川沿いの遊歩道に出た。
目を上げると、ホテルのネオンが見える。
「言わなきゃ駄目?」
拓海が言うと、
霞は「言う必要ないわ」と答えた。