ヒカリ
ベッドの中で、だんだんと夜が明けて行くのを眺める。
深夜に帰宅すると、リビングは真っ暗だった。
結城の部屋も暗い。
帰っているのかどうかわからなかったが、ドアをノックする勇気はなかった。
拓海はそのまま部屋にはいり、朝を迎えた。
五時をすぎた頃、拓海は部屋を出て、シャワーを浴びる。
仕事に行かなくてはならない。
ゆきと顔を合わせる。
どんな顔をしていいのか。
濡れた身体でリビングに出ると、結城が自分の部屋から出てくるところだった。
結城が顔をあげる。
拓海は「おはよう」と声をかけた。
「おはよう」
結城が着ている服は昨日と同じままだ。
「シャワー使う?」
「うん」
結城は頷いた。
謝るべきか、それとも何事もなかったように振る舞うべきか。
拓海が躊躇していると、結城が「悪かったな」と言った。
「俺も……悪かった」
拓海もつられてそう言った。
「奈々子さんと話せた?」
「うん」
「なんて?」
「何にも」
「そうか……」
拓海は結城のうつむきがちな顔を見る。
一晩の間に頬がこけてしまい、ぐったりしている様子だ。
「なんか食べる?」
「いや、いい」
結城はそう言うと、洗面所に入って行った。
一緒に暮らし出してから、何度も気まずい場面はあった。
そもそも最初から、二人の間には他人には分からない緊張がある。
それは静かに、けれど必ず、二人の間にはあるのだ。
壁を上塗りするように、これまで表面上の修復はしてきたが、ちょっとしたことでひび割れる。
今回のひび割れは、第三者が介入してきたからか大きい。
表面だけでも修復できるかどうか、拓海には自信がなかった。
拓海はのろのろと出かける支度をする。
お腹に何かを入れた方がいいのはわかったが、昨夜のお酒が残っているからか、それとも自己嫌悪のせいなのか、むかむかしてとても食べる気になれなかった。
六時すぎ。
鞄を肩にかけ、自分の部屋を出る。
リビングを横切ると、ドアの隙間から自分の部屋でワイシャツに袖を通す結城が見えた。
拓海は目をそらし、声をかけずに家を出た。