ヒカリ
リビングに降りて行くと、座卓に食事の用意ができていた。
「いっぱい作ったね。いいのに、気を使わなくて」
奈々子は座りながら言った。
「何いってるの。たまに帰ってくるんだもの。おいしいものを食べさせたいって、親なら誰でも思う物なの。わたしの夕飯も豪華になっちゃった」
母親は手を合わせながらそう言った。
「いただきます」
奈々子は箸を手にとった。
「おいしいね、コレ」
奈々子が言うと、
母親はうれしそうに「ありがとう」と言った。
最初はたわいもない話をしていたが、そのうち母親が思い切ったように訊ねた。
「何かあったの?」
「何にもないよ」
奈々子は母親から視線をそらして、そう答えた。
「須賀さん元気?」
母親はお椀を手にもちながら訊ねる。
「元気だと思うよ」
奈々子が答える。
「会ってないの?」
「友達だってだけだから、そうしょっちゅう会わないの」
「ふうん」
「寒くなったね」
奈々子は話題を変えた。
「そうね。朝と夜は冷えるわね。今年は冬が厳しいらしいわ」
「なんか、どんな冬だったか忘れちゃった。東京ってあったかいんだ」
「東京って不思議なところね」
母親がわらった。
食事が終わり、食器を片付け始める。
「お茶飲む?」
「うん」
奈々子はお盆を持って、台所へと入って行く。
「あ、そうだ。梨いただいたんだった。むこうか」
「お腹いっぱい。あとで食べる」奈々子は答えた。