ヒカリ
「拓海先生、彼女いる?」
ゆきが訊ねた。
「……いない」
「わたしもいないんです。別れたばっかり。誰も泣く人いないんだから、いいじゃないですか」
ゆきは笑った。
「でも……。拓海先生って、不思議ですよね」
「何が?」
「普段はどっちかっていうと、かわいい感じじゃないですか?」
「そうかな」
「仕草も雰囲気も、とてもアラサーには見えませんよ。なんかよしよしってしてあげたくなっちゃう」
「ええ?」
拓海は眉間に皺を寄せてみせた。
「ほら。この感じ。かわいいの」
拓海は顔を隠す。
観察され慣れてないので、気恥ずかしい。
「でもこの間はすっごい男の人だった。あれはあれで、いい感じ。もう見られないのかなあ」
ゆきは言う。
「俺、そんなこと言われたことないよ。もうそこらへんでやめて」
拓海は恥ずかしくてたまらなかった。
「酔わせると、ああなるのかな?」
ゆきは意地悪くそう言うと
「飲みます?」
とビールを差し出す。
「やめてって」
拓海は抗議した。
「寝てる拓海先生を見てたら、結構なイケメンでした」
「は? そんなこと言われたことないよ」
「パーツの形は整ってるし、かっこいいですよ。雰囲気がかわいいからみんな気づかないだけ」
「俺の幼なじみは、びっくりするほどのイケメンだよ」
拓海は言った。
「そうなんですか?」
「一緒に歩いてると、必ずみんな振り返る。女の子はいっつもそっちばっかり見てた」
「写真持ってます? 見たいなあ」
ゆきが言う。
「男の写真なんて、持ってないと思うけど」
そう言いながら拓海は自分のスマホを見た。
いくつか写真をスライドさせてから
「あ、これ。そうだ、雑誌に掲載されたときに記念にとったんだった」
と、ゆきにスマホを見せた。
結城がモデルをしていた頃の雑誌の一ページだ。
「うわっ。きれいな顔の人ですねえ」
ゆきがびっくりした声を出した。
「でしょ? 俺はいっつも、地味で、目立たず」
「へえ」
ゆきが携帯を拓海に返した。
「あれ?」
拓海は驚いて声を上げる。
「なんです?」
「反応がそれほどじゃないな、と思って」
「イケメンはもうこりごり」
ゆきが首をすくめる。
「元カレはかなりいい男でしたけど、軽くストーカーみたいになっちゃって」
「そうなの?」
ゆきは曖昧に笑う。
「あ、でも、拓海先生はイケメンだけど、別ですからね」
と言う。
ゆきにそう言われると、拓海はちょっとドキッとする。
心臓に悪い。