ヒカリ
奈々子はコーヒーに口をつけ、拓海が座っていた椅子を見つめる。
さわやかな風が奈々子の腕をなでる。
拓海は気づいていない。
すべては拓海のためなんだと。
奈々子と出会い恋に落ちたのは仕組まれたもので、そうやって結城が『見せていた』だけだということを。
奈々子が結城のもとを離れなければ、拓海はためらいなく新しい生活を始められる。
愛する人を亡くし、家族を亡くして、つらい思いをしてきた拓海が、新たに誰かと出会い、愛し合って、家族をつくる。
おそらく結城が最も望んでいたことだ。
それが叶う。
奈々子が結城のもとを去らなければ。
奈々子は立ち上がり、鞄を肩にかけた。
「ごちそうさまでした」
と店員に声をかけて、店の外にでる。
歩道の真ん中で立ち尽くす。
秋の暖かな日差しを感じる。
奈々子はゆっくりと歩き出した。
小学校の脇を通る。
校庭に子供の姿はない。
春になると満開の桜が空を埋める木々の下を歩いた。
見上げると緑の葉が生い茂る。
紅葉にはまだ早い。
奈々子は立ち止まり、鞄から携帯を取り出した。
結城の連絡先を出し、しばらく画面を眺める。
それから一息吸い込むと、覚悟を決めて電話をかけた。