ヒカリ
二十七
「今週も拓海さんいないんですか?」
奈々子はビールを飲みながら訊ねた。
「うん、あいつ忙しいんだ」
結城はテーブルの上のピスタチオの殻を指ではじきながら、そう答えた。
結城のマンション近くの居酒屋。
心地よい音楽が流れる。
半個室席に結城と二人で座っている。
拓海の結婚が決まってから、こんな風に何度か一緒に週末を過ごしている。
映画を見たり、公園に行ったりした。
以前のように、結城の側にいるだけで、胸がどきどきするということはなくなった。
けれど無意識のうちに、注意深く結城の表情を見ている自分がいる。
笑っているけど、本当は泣きたいんじゃないだろうか。
黙っているけど、本当は誰かに気持ちを話したいんじゃないだろうか。
「じゃあ、今夜も一人?」
奈々子は聞く。
「うん」
結城は口を尖らせて、まるですねているようにそう言った。
「合宿でもしますか?」
「なにそれ?」
「一晩中、おしゃべりするんです」
「発想が女子だね」
結城は笑った。
「お菓子とお酒を買って。楽しいですよ」
「どこで?」
「今から須賀さんちに行きます」
「いいの?」
「だって、何にもしないでしょ」
「しないけど……キスもだめ?」
「何言ってるんですか?」
奈々子はテーブルに散らばる殻を結城の方へはじき飛ばした。
「冗談」
「知ってる」
奈々子は笑ってグラスを飲み干した。
結城は殻を手であつめて、テーブルの上に山を作った。
「ナッツ食べ過ぎですね」
「ピスタチオが大好きなんだ」
「にきびできません?」
「なにそれ?」
結城がとぼけた顔で言う。
「聞いた相手を間違えた。肌つるつるですもんね」
「でしょ?」
結城は自分の頬をなでてみせる。
「なんだか鼻についてきた」
奈々子は眉をしかめて言う。
「最近、奈々子さん冷たいなあ」
「須賀さんも、最初と違う。なんでジャージにマフラー?」
「近所だから」
「ちょっとはおしゃれして出て来てくださいよ」
「ひげは剃ったよ」
「それは最低限の身だしなみでしょ」
「だって、ナルシストって言うんだもん」
「それとこれとは違うと思います」
「女って、訳わかんない」
「須賀さんのほうが不思議ですよ」
奈々子はそういってから携帯の時計を見る。
「行きます?」
「うん」
結城もビールのグラスを空にした。