ヒカリ
「なんで俺、こんなこと話してるんだろうな」
「いつでも聞きますよ」
「俺も、奈々子さんの話し、聞くよ」
「でもわたしって、あんまりそういうのないんですよね」
「そうだった。俺が最初を全部もらっちゃったんだった」
結城は身体を起こして奈々子を見る。
「ですね」
奈々子は気まずくなって、曖昧に笑った。
「本当は、俺じゃない方がよかったよね」
「別に後悔してませんから、気にしないでください」
「利用されたのに、なんで俺を責めないの?」
結城はソファの肘に腕をのせ、奈々子を見る。
奈々子はグラスをテーブルに置いた。
「それはやっぱり最初はショックでしたけど」
「須賀さんは責任を取る覚悟で、わたしに声をかけて来たんですよね。自分の人生をかけて。悩みました。でも、すべて聞かなかったことにして、須賀さんと過ごしても、やっぱり欲がでてきてしまう。わたしは須賀さんを愛している訳じゃないのに、愛してほしいって思っちゃうんです。だから、こうするのが一番なんです」
奈々子は笑って見せた。
結城は奈々子の目を見つめる。
大きくてきれいな瞳。
まっすぐな鼻筋。
少しふっくらとしている唇。
「きっと奈々子さんを幸せにしてくれる人が、どこかにいるんだろうな」
結城は右手を伸ばし、奈々子の頬を手の甲で触った。
「須賀さんを幸せにしてくれる人も、きっといます」
奈々子は結城の顔を見てそう答える。
テレビからは別れの曲が流れている。
結城の指の温度を、奈々子の頬に感じる。
結城の姿はテレビの光で青白く光っている。
目を見ると潤んでいるように見えた。
「サザンやめた」
結城は奈々子の頬から手をどけると、リモコンをとってチャンネルをかえる。
ただひたすらにチャンネルをかえ続け、各局を一周した後、アニメチャンネルにあわせた。
「これにする」
結城はリモコンを奈々子に放り投げて、背もたれに身体を預ける。
「なんですか、これ」
「見たことない。でも面白そうだろ」
「ギャグマンガ?」
「それがいいんじゃん」
結城はにやりとする
「笑えるやつがいい」
「そうですね」奈々子は頷いた。
この人は泣き虫だけれど、本当に泣きたいときには泣けないんだろう。
結城の笑い声を聞きながら、奈々子はそう思った。