ヒカリ
エレベーターで下に降りると、管理人の中年男性が小窓から顔を出した。
「六階の方、お引っ越しですか?」
「はい、僕だけ。お世話になりました」
拓海は笑顔で頭を下げる。
「こちらこそ、長くお世話になりました。こちらに引っ越しされてきた時のこと、覚えてますよ」
人の良さげなその管理人は言った。
「すっかり元気になられて」
「ありがとうございます」
拓海は照れたようにそう言って、再び頭をさげた。
日差しの下に、トラックのエンジン音が鳴る。
「じゃあ、よろしくお願いします」
拓海は業者にそう言うと、トラックは静かに出発した。
右に曲がり、大通りへと入って行く。
拓海はそのトラックを見送ってから、結城を振り返り、見上げた。
「じゃあ、またな」
拓海の黒髪に初冬の日差しが光る。
「うん」
結城はそう答える。
彼の指が奈々子の指を強く握った。
「奈々子さん、今日はわざわざありがとう。子供が産まれたら、結城と一緒に見に来て」
「はい、もちろん」
「またね」
拓海は手を上げ、歩き出した。
十歩歩いて、
振り返り、
手を上げて、
また十歩歩いて、
今度はマンションを見上げ、
それから結城を見て、
微笑み、
それから一度も振り返らず、大通りへの道を入って行った。