ヒカリ
ゆきが
「明日のメダル作りしちゃいましょっか」
と拓海に声をかけた。
「うん」
拓海は文具棚から折り紙の束を取り出す。
二人はそれから人数分のメダルを折り紙で作り始めた。
明日はスイカ割り大会だ。
スイカに棒が見事あたった子には、スイカメダルをプレゼントするのだ。
二人は向かい合わせになって、黙々とスイカを折だした。
ゆきとはぎくしゃくすることなく、毎日を過ごせている。
拓海から連絡することはもちろんなく、それでもゆきはすねたり、文句を言ったりするわけじゃない。
いつも通りに仕事をこなし、笑顔で「おつかれさまです」と挨拶する。
結城が「女の子は快楽だけでセックスする訳じゃない」と言っていたが、ゆきは拓海に気のある素振りを一切見せない。
なんだか取り越し苦労だったかなと最近思うようになった。
「できたメダルから、スイカの種書いちゃおっと」
ゆきは油性マジックを持って来て、種をくるくる丸く書き始めた。
「ねえ、それ種おおすぎじゃない?」
拓海はゆきの手元のすいかを見て、思わずそう言った。
「ええ? そうかな?」
ゆきが首をかしげる。
「だって、赤い実がすくなすぎる」
「やりなおし?」
ゆきが困った顔をした。
「まあいっか」
拓海はそう答えた。
ゆきの困った顔は、とてもかわいい。
「いつ、花火屋さんいきます?」
ゆきが種を書きながら拓海に訊ねた。
「いつでもいいよ。休日の方がいいのかな?」
「そうですよね。夜に花火問屋さんってやってるのかわからないし」
「今週の土曜日、一緒にいく? 蔵前とかが問屋街だよね」
「そうなんですか? 知らなかった。土曜日オッケーですよ」
「じゃあ、そうしよう。お昼頃でいい?」
拓海が訊ねる。
「はい。ランチ一緒にしますか?」
「いいよ」
拓海は答えた。
「デートだ」
ゆきがペンを唇にあて、にこっと笑う。
拓海の心臓はどきっと跳ね上がった。
あの日以来、ゆきが笑うと拓海は心穏やかではなくなってしまう。
どうしたんだろうか。