ヒカリ
カーテンを開けて、外を見た。
東京の下町。
小さなアパートや一軒屋がぎっしりと詰め込まれている。
奈々子の出身は群馬だ。
専門学校のために東京に出て、そのまま東京に就職した。
たまに「帰りたい」と思うときがある。
東京に友人はいるし、今の職場を変えるつもりもない。
ただ時々、脳裏に真緑の山が広がる。
葉っぱのかおりと、川の流れる音。
そんなとき、自分の居場所はここではない、と感じるのだ。
「何着てこうかな」
奈々子は作り付けのクローゼットを開けて、ドレスを選んだ。
今日は結婚式の二次会だ。
専門学校時代の友人で、都心の大学病院で医療事務として働いている。
もう二十六歳。
そろそろ周りは名字を変え始めている。
群馬の友達のなかには、もう子供が三人もいる子もいる。
東京にいるとそれほど感じないが、やはり適齢期なんだろうと思う。
「出会わないなあ」
奈々子はクローゼットからグレーのドレスを取り出しながらつぶやいた。
テレビ横の姿見を見て、ドレスを合わせてみる。
膝までの柔らかなラインのワンピース。
シフォンがふわっと広がっていて、上品に見えた。
「これに、この間買ったパープルのサンダルと、アクセサリーはどうしようかな」
奈々子は姿見の横に置いてある小さなアクセサリーボックスから、大振りのパープルのネックレスを取り出した。
「いいかも」
もちろん本物ではないけれど、豪華に見えておしゃれだ。
再び鏡をみて、自分のヘアスタイルをチェックする。
肩より少し下まで伸びたストレート。
髪色を本当に少しだけ明るくしている。
パーマはかけていないから、アップにするのは大変だろう。
「念入りにブローすれば、いいかな。前髪だけちょっとアップにしよう。ああ、そうだ。今日、場所どこだっけ」
奈々子はワンピースとネックレスを姿見にひっかけて、ベッドサイドに置いてある自分の鞄を引っぱった。
仕事で使っている、キャメル色のレザーバッグだ。
「あれ、ないな。なくしちゃうと嫌だから、鞄に入れたつもりだったんだけど」
奈々子は鞄のなかをかき回し、それから中身を全部だして、ポケットというポケットを全部調べた。
「まずい。ないや。どこやったんだろう。家かな?」
奈々子は部屋を見回した。
ワンルームの、探すところは限られている。
郵便物を一時的に入れておく場所、テレビの後ろ、ベッドの脇、床に落ちているものをすべて持ち上げて調べたが、どこにもなかった。
「どうしよう。やっぱり診療所かな」
フローリングにへたり込んだ奈々子は、ベッドサイドのデジタル時計を見た。
「電話して聞こうかな。ああ、でも、渡さなきゃいけないメッセージカードが入ってたんだ。診療所よって、それから……。急がなくても、間に合うな」
奈々子はうーんと伸びをする。
「でも、なかったらどうしよう。そうしたら恥を忍んで電話して、もう一度カード頂戴って言えばいいか」
奈々子はそう言うと、立ち上がってシャワーを浴びにバスルームへと入って行った。