ヒカリ
自動扉が閉ると、とたんに現実に引き戻される。
年月を重ねて艶の出た板張りの床と、
革張りの、これもまた古びた茶色のソファアが三脚。
子供達のためのおもちゃや絵本が、窓際に並べられている。
大きな扇風機が左端に置かれ、待合室の中の空気をゆっくりと循環させている。
「やばいよ」
珠美がつぶやいた。
「びっくりした」
奈々子も答えた。
珠美は手元に残る白い名刺を見つめ
「週に二度、この人くるんだよね」
と言う。
「うん」
奈々子はうなずいた。
「ラッキーすぎる。神様ありがとう」
珠美は大げさに上を見上げた。
時計を見ると、そろそろ午前の診察時間も終了になる頃だ。
このまま誰も来なければ、お昼ご飯に出られる。
珠美はビニールの回転椅子に座ると、早くもお昼に出る用意をし始めた。
奈々子がちらりと診察室の方を伺うと、何やら話し声が聞こえる。
奈々子は身を乗り出して、診察室をのぞいた。
かず子先生と二人の看護士が、何とも言えない幸せそうな顔をして話している。
奈々子は珠美の腕を少し引っ張り、注意を促した。
二人で診察室に顔をのぞかせる。
かず子先生が気づいて、笑顔を見せた。
「イケメンだったねー」
「もう、心臓がどきどきしちゃって」
珠美が大きな声で返した。
八田看護士が大きな胸を揺らしながら
「写真とってくださいって言いたくなっちゃったよ」
と笑った。
もう一人の鈴木看護士も
「あの人、前は芸能人かなんかなの?」
と興味しんしんで言った。
「でも、芸能人でもあれほどの顔の人、いないと思いません? なんていうか、オーラが違うっていうか……」
珠美が答える。
かず子先生がちらりと時計を見て「お昼休みはいろっか」と言った。
「じゃあ、締めてきますね」
奈々子は早速玄関に「午後の診察は三時からです」という看板をかけた。