ヒカリ
結城の気配を感じて、鈴木さんが受付に顔を出した。
彼女の顔も笑顔になる。
「お世話になります」
結城は彼女の顔を見て笑顔で挨拶をする。
それだけで鈴木さんはとろけそうな顔になった。
「はい、大丈夫です」
珠美はリストにサインをして、結城に手渡す。
「ありがとうございます」
結城はリストを再度チェックして、納品書だけ破り取り珠美に手渡した。
「今度、かず子先生とちょっとお話したいんですが」
結城がバッグからチラシを一枚取り出す。
「抗アレルギー剤なんです。アメリカではもう何年も前から使用されていたんですが、日本でもやっと認可がおりて。当社でも扱うことになったので、そのご説明をさせていただきたいと思いまして」
珠美はちらっと診察室の方をのぞき
「今日はちょっと難しいですね」
と申し訳なさそうに伝えた。
「土曜日はいかがですか? 午前診療なので、終わり間際の短い時間にお話させていただければ」
「聞いてきますね」
奈々子は立ち上がり、診療室のかず子先生を訊ねる。
かず子先生と話している間も、奈々子は背後の受付の気配が気になって仕方ない。
「線をひく」
思わず口にだして、かず子先生が「何?」と問い返した。
奈々子はあわてて
「すみません、独り言です」
と言った。
「土曜日、お待ちしております」
受付に戻ると、奈々子は結城と目を合わせないようにそう伝えた。
「わかりました。よろしくお願いいたします」
結城が頭をさげた。
「それじゃあ」
結城はバッグを肩にかけ直し、診療所を出て行こうとする。
奈々子はその背中を目で追った。
すると、ぱっと結城は振り返り、受付に再び引き返して来た。
カウンターに腕をのせ身を乗り出すと奈々子に言った。
「あの人、僕の恋人じゃないです」
奈々子は驚いて結城を凝視する。
「それじゃあ、土曜日に」
結城は全部を見通していると言わんばかりの笑みを浮かべて、診療所を後にした。
自動扉が締まり、扇風機の音が響く。
待合室で帰れずにいた患者さん親子は、呆然とした表情をしている。
奈々子は顔があつくて、思わず手であおいだ。
「奈々子……やばい」
珠美が待ち合い室の親子にも聞こえてしまうほどの声で話しかける。
診察室から受付に顔を出した鈴木さんも
「聞いちゃった」
と言った。