ヒカリ
拓海のいるテーブルには、ゆきと中堅どころの二十代後半の先生二名がいた。
考えてみれば中堅どころの先生たちは、拓海とほぼ同年代だ。
「焼いてばっかりじゃない、拓海先生」
年中を担任しているさち先生が言う。
「食べて、食べて」
さちは拓海のお皿に、焼いたお肉をのせて行く。
「ありがとうございます」
拓海は礼を言って、箸をもった。
「拓海先生って、二十七なんでしょ?」
さちの隣に座っていた幹子先生が訊ねる。
「はい」
「じゃあ、私と同じ年じゃん」
幹子は酔いも回って来たのか、気楽な口調で言う。
「今までなにしてたの?」
「えっと、ぷらぷら」
拓海は曖昧に笑ってそう言った。
「ニート?」
「そんな感じです」
「へえ、意外」
さちがビールを片手にそう言った。
さちは面長で印象的な額を持っている。
目は聡明そうだが、ぱっと見愛嬌があるタイプではない。
ただ話をすると、とても印象のよい人だ。
「男の先生が入って来てくれて、本当によかった」
幹子がいう。
「子供達と身体を使って遊ぶのは、やっぱり男の人の方がうまいもの」
「ですよね」
ゆきがうなずく。
幹子はがっしりとした体格の女性で、ヘアスタイルは肩ぐらいまでのボブ。
いつもおおらかに笑う。
子供達からは特に慕われていた。
「拓海先生って、草食男子かと思いきや、意外とたくましいよね」
さちが言う。
「顔がこんななんで、密かに鍛えてるんです」
拓海は笑う。
「本当に若いよね。十代にも見える。秘訣を教えてほしいわ」
幹子が自分の頬をなでた。
「僕はやっぱり歳相応に見られたいですね。それはもう、昔からそう思ってました」
「ないものねだりね」
みんながうなずく。
「拓海先生、彼女いるの?」
さちが訊ねた。
「いませんよ。なんでです?」
さちは
「いや、拓海先生が女の子と付き合ってるところ、まったく想像できないから」
と言って笑った。
「あ、ひどい」
拓海は口をとがらした。
「僕もそれなりにありますよ」
「そりゃ、そうだ。二十代後半でなんもないってことはないよ」
幹子が肉を口にいれる。
「なんでさっきから僕の話ばっかり?」
「だって唯一の男性職員だよ。気になるよね」
さちが冗談めかして言った。
「そうそう」
その場にいるみんなが頷いた。
拓海は妙に照れてしまって
「何いってんですか」
と言いながら、再び肉を焼きだした。
「これまでどんな人と付き合ったの?」
さちが訊ねる。
「言わなくちゃ駄目ですか?」
「新米は言わなくちゃ駄目」
「えっと……年上の人とか」
拓海は仕方なく何人かを思い浮かべてそう言った。
「やっぱり」
幹子が両手を叩く。
「年上から可愛がられてそう」
「かわいい年下って、魅力だよね」
さちがうなずく。
「僕はさち先生と同じ年ですよ」
「だから、拓海先生は理想じゃないんだけどさ」
さちが笑ってビールを飲んだ。
拓海はお肉をどんどん各自のお皿に載せて行く。
「ゆき先生は? どんな人がタイプなの?」
幹子がビール片手に訊ねた。
それまで黙っていたゆきは、少し考えてから
「頼りになりそうな人ですかね」
と言った。
「はい、拓海先生、アウト」
さちは早くも酔ってきたのか、いつもより大きな声でそう言った。
「アウトってなんですか」
拓海は憮然とした表情を見せる。
「だって拓海先生は、かわいいもの。頼りになるって感じじゃないよね」
さちは同意を得るように、ゆきに笑いかける。
ゆきは笑って
「そうですね」
と答えた。
「ああ、そうだ!」
さちが思い出したように言う。
「この間、何にもなかった?」
「は?」
拓海は首を傾げた。
「ほら、拓海先生泥酔しちゃってさ、ゆき先生に引きずられて帰ったじゃん」
「あ、ああ……」
拓海は動揺したが、笑って
「まさか」
と言って返した。
「拓海先生、本当にべろべろに酔っちゃって」
ゆきも笑ってそう付け加える。
「気をつけます」
拓海は本心からそう言う。
神妙にうつむいた。