ヒカリ
翌日、拓海は無言でパンとコーヒーの朝食を用意した。
結城の部屋の扉が開いて、ジャージ姿の結城が出て来た。
「おはよう」
拓海はちらっと結城の顔を見てそう言った。
「おはよう」
結城は頭をかきながら、ソファに座った。
いつものことだ。
二人とも特に何も言わない。
こうやって長い間二人で過ごしてきた。
「ブラックでいい?」
「うん」
結城がうなずく。
コーヒーの香りがリビングに漂う。
パンをトースターから取り出し、バターを塗る。
「おかずは?」
結城が訊ねる。
「ないよ」
「ハムとかチーズとかほしい」
「最近、買い物行かないから」
拓海はマグとお皿をテーブルに並べた。
「……なあ、結城」
コーヒーを一口飲んでから、拓海は口を開いた。
「うん?」
「お金、貸してくれない?」
「……いくら?」
「五十」
「いいよ」
結城がコーヒーを飲む。
結城は何に使うか聞かない。ありがたかった。
「いつ?」
「すぐにでも」
「週明けで、銀行いく」
「サンキュー」
拓海はほっとした。
これでゆきは引っ越しできる。
「金借りるなら、やっぱおかずぐらい用意しろよ」
結城が口をもぐもぐさせながら、そう言った。
「じゃあ、今夜おごるよ」
拓海は言う。
「オッケー。じゃあ、ステーキ。ガーリックバターで食べるあそこのステーキ」
「……わかった」
拓海はうなずいた。
「さ、働いてくるかな」
結城は最後の一口をコーヒーで流し込むと、大きく伸びをしてから立ち上がり、バスルームへと消えて行った。