ヒカリ
女の子達とどんな風に過ごしたのか、それを想像すると、奈々子の心はざわめく。
「線をひく線をひく」
奈々子は胸に手を当てて、心の中で唱え続けた。
奈々子がふと目をあげると、結城が奈々子を見ていた。
心臓が飛び跳ねる。
「何か?」
奈々子は冷静な態度で訊ねる。
「いえ、別に」
結城は笑みを浮かべながら頭を振った。
なんだろう。何かしたかな?
変な顔になってたか、それとも汗でお化粧がとれてたか。
ああ、鏡を見てチェックしたい。
奈々子は下を向いてもじもじとした。
「さあ、子供を迎えにいかなくちゃ」
鈴木さんが立ち上がった。
お皿とコップを小さなシンクの中にいれる。
「僕もそろそろ」
結城は立ち上がると、鈴木さんに習ってお皿とコップを手に持った。
「そこに置いておいてください、やりますから」
奈々子はそう声をかけた。
「いえ、大丈夫ですよ」
結城はシンクにお皿を入れ、鈴木さんの分も一緒に手早く洗った。
「わあ、手際がいい」
八田さんが感心したように声をあげた。
「僕は母子家庭だったので、母親のかわりに随分家事をこなしました。今も同居人と家事は分担してるんで、割と得意ですよ」
「じゃあ、お料理なんかもできるの?」
八田さんが立ち上がりながら訊ねる。
「凝ったものはできないですけど、一通りは」
結城は次々とお皿を洗い上げる。
「ミスターパーフェクトだねえ」
八田さんが口をあけて結城をみた。
「そんなこともないです。どちらかというと欠陥だらけで」
結城は全員分のお皿を洗い終えると、ポケットからハンカチを取り出して、手を拭いた。
「楽しい時間でした」
珠美が笑顔で立ち上がる。
「僕もです」
結城は珠美に笑いかける。
珠美はそれだけで、もうにやにやが止まらないようだ。
「じゃあみんな、帰りましょうか。せっかくの土曜日ですしね。一日を長く使いましょう」
八田さんが帰り支度をしながら言った。
結城は鞄を手にもち
「それじゃあ、僕はお先に失礼します。ごちそうさまでした」
と頭をさげた。
「付き合ってくれてありがとうね」
鈴木さんが手を振る。
「またご一緒しましょう」
珠美も会釈をした。
八田さんは
「またおいしいもので釣らないと」
と言って、大きな口をあけて笑った。
奈々子は何を言っていいのかとっさに思いつかず、無言で頭をさげた。
結城は奈々子を見ると、こちらに歩いて寄って来た。
とたんに奈々子は緊張する。
「あの」
結城が声をかける。
「はい」
「この暑い中、わざわざ買って来てくれたのに、僕が食べてしまって、本当にごめんなさい」
「いいんです。お気を使わずに」
「今度、僕がごちそうしますね」
結城はそう言うとにこっと笑った。
思わず息をのむ。
なんてかわいい笑顔なんだろう。
「じゃあ、失礼します」
結城は礼をして、扉から出て行った。