ヒカリ
結城の足音が遠ざかり、玄関から出て行くのがわかると、女性たちはまた騒ぎ始めた。
「笑った!」
珠美が興奮して言う。
「何、あのかわいさ。とてつもなくきれいで、色気もあるのに、あの子供みたいな笑顔! 信じらんない」
鈴木さんはほっぺたを両手で押さえて、目を閉じている。
「鈴木さん、子供のお迎えの時間、せまってますよ」
珠美が言うと
「わかってますって」
と鈴木さんが口をふくらます。
「余韻に浸らせてよ」
「あの人に会うと、なんかしら、お土産をおいてくね」
八田さんが言う。
「奈々子、気に入られてるじゃん」
珠美が奈々子の背中を叩いた。
「そんなことないよ」
奈々子は笑って返した。
「気に入られてるって。なんか奈々子のほう、しきりに見てたよ」
「まさか」
「ほんと、ほんと」
鈴木さんもうなずく。
「それで、決まってちょっと笑うんだよね」
八田さんも言った。
「ええ? わたし、おかしなことしてた?」
奈々子はびっくりして訊ねる。
「別に……ねえ?」
珠美が首を傾げた。
「うん。いつも通り」
みんなはうなずいた。
「やっぱり気に入られてるんだよ」
鈴木さんはうなずくと
「じゃあ、またね。ああ、おくれちゃう」
と言って、鞄を抱えて部屋から出て行った。
「線をひく」
と心に決めていたけれど、奈々子は胸のドキドキを押さえることができなかった。