ヒカリ
豚肉を甘辛くいためて、大皿に盛る。
おいしそうな匂いが湯気となってあがり、換気扇の中に消えて行った。
「持って行って」
拓海はソファに転がっている結城にそう言うと、カウンターの上に皿をのせた。
「うん」
結城は起き上がり、食卓の支度をしはじめる。
「何飲む?」
拓海は冷蔵庫の前で訊ねた。
「麦茶。いや、りんごジュース」
結城がカウンター下の棚の引き出しから箸を取り出し、テーブルの上に並べ始める。
この部屋にダイニングテーブルはない。
テレビの前のローテーブルでいつも食事をする。
結城は革張りのソファを背もたれにして、グリーンのラグの上に座り込んだ。
「ごはん、大盛り?」
「うん。あ、取り皿忘れた」
結城が立ち上がろうとするのを、
拓海は「持ってく」と言って、手で制した。
「男の夕飯だね」
拓海は大皿の肉に、ごはんだけという、おおざっぱな料理を見てそう言った。
「これで煮物と、みそ汁がついたら、完璧なのに」
結城は箸を加えて、うらめしそうに言う。
「じゃあ、お前が作れよ」
拓海も座って、リンゴジュースを結城のグラスについだ。
「めんどくさい」
結城が言う。
「なら、文句言うな」
拓海はそう言うと、ごはんを一口ほおばった。
結城も「いただきます」と言ってから、箸をつけはじめた。