ヒカリ
しばらく二人でもくもくと食事をする。
明日は日曜日で、二人とも休みだ。
「幼稚園どう?」
結城がちらっと拓海を見て訊ねた。
「うん。普通」
拓海は肩をすくめて、そう答えた。
「お前が幼稚園の先生だなんてな。びっくりだ」
結城が言う。
「そうかな」
「お前が子供みたいなのに」
「割と人気なんだぞ」
拓海はジュースを一口飲んで、再びご飯を食べ始める。
結城はおそらく、拓海が幼稚園を職場に選んだ理由を知っている。
あえて言わないだけだ。
「お前は?」
拓海は話題をそらそうと、結城に訊ねた。
「研修が終わって、担当地域をもらったんだろう?」
「うん」
「大変?」
「まあね。でも仕事はなんでも大変だろう?」
「そうだけど。結城は営業になりたかった訳じゃないだろう。だいたい、お前に向いてるのかどうか」
「向いてないね」
結城は食べ終わり、再びリンゴジュースをグラスにつぐ。
「俺に遠慮しないで、好きな職業につけばいいのに」
拓海はそう言ってから、ちらりと結城を見た。
「別に遠慮じゃないよ。希望部署に行けなかっただけ」
「ふうん」
拓海も食べ終わり、一息ついた。
「ああ、でも」
結城はそう言うと、くすっと笑った。
「どうした?」
「担当の診療所にさ、おもしろい子がいるんだ。ほら、鍵を届けに行った子」
「どんなふうに?」
「見た目、すごく大人びてるんだ。言うことも、やることも、完璧に大人の女性なんだけど、様子がころころ変わるんだ。ちょっと話しかけただけで、顔がこわばって、耳まで真っ赤になる」
「別におかしくないよ。そんな子いっぱいいるじゃないか」
「そうかな?」
「お前の周りには、そんな子ばっかりだったよ」
「ええ?!」
「見えてないだけ」
「そうかな」
「お前は、基本、自分に話しかけてくる子しか、目に入ってないだろう」
「普通、そうじゃない?」
「いや、もっと周りに気を配るもんなんだよ」
「へえ」
「お前に近づこうって言う子は、よほど自分に自信のある子だけ。考えてみろよ」
「……」
結城は首を傾げる。
「普通は距離を置くんだ。お前みたいなのは遠くから見てるだけでいいって思うもんなの」
「……俺のこと、なんだと思ってんだろうな」
結城はほおづえをついて、つまらなそうな顔をした。
「エイリアンか、ハリウッド俳優か。めちゃくちゃ一般人なのに」
「町にお前がいたら、たいていちょっとびっくりする」
結城はさらに顔をしかめる。
「ちぇ。俺は普通に暮らしたいだけなのに」
「基本、お前は見かけ倒しだからな。軽く引きこもりタイプなのに」
「だろ?」
結城は拓海を見て
「誰も信じないんだ」と言った。