ヒカリ
拓海は食器を重ね、キッチンに戻る。
台ふきんを結城になげ「ふいて」と声をかけた。
「俺、洗う」
結城は手早くテーブルを拭き終わると、立ち上がった。
「サンキュ」
拓海と交代で、結城がシンク前に立った。
「そういえば、今日、手際がいいってほめられた。食器を洗ったときに言われたんだ」
「へえ」
拓海はソファに座り、テレビのリモコンを隙間から掘り出した。
「ごちそうしなくちゃな」
結城が言う。
「誰に?」
拓海はチャンネルを変えながら、訊ねた。
「さっき言ってた子。あの子、俺に肉まんを分けてくれたから」
「ふうん」
「やっぱり、肉まんを買って返すのがいいと思う?」
結城が訊ねる。
「そりゃ、味気ないな」
拓海はちらりと結城の顔を見た。
どうも真剣に考えているようだ。
「食事に誘うのは、やっぱりまずいよね」
「ええ? 誘うの?」
拓海は驚いて声をあげた。
「だって、買って返すのは味気ないって言ったじゃないか」
「……あんまり、思わせぶりなことをするのは、よくないんじゃないか?」
「思わせぶりかな?」
「取引先だろう? まずいと思うけどな。ちょっかいだすのはどうかと」
「ちょっかいじゃなければ?」
「……そうなの?」
拓海は結城のそんな様子をみたことがなかった。
「どうかな……わかんない。その子すっごい緊張してるからさ。普段はどんなかな? っていう興味があるんだ。もし突然キスをしたら、どんな顔するかなあ、とか」
「それをちょっかいって言うんじゃないのか」
拓海は半ばあきれて、そう言った。
「そっか」
結城は食器を洗い終えて、キッチンの明かりを消す。
それから拓海の隣に座った。
「充分に考えてから、行動しろよ。お前、もう大学生じゃないし、問題が起きたら大変なんだから」
「わかってるよ」
結城はクッションを抱きしめ、ごろりと横になった。
テレビから音楽が聞こえる。
ちょうど高校の頃にはやった音楽だ。
「懐かしいな」
結城が目を閉じた。
「うん」
胸の奥にわき上がる切なさ。
痛み。
そして喪失感。
拓海も目を閉じた。
そして二人でしばらく、その音楽に耳をかたむけた。