ヒカリ
「待ち伏せみたいにして、ごめんなさい」
結城が謝る。
「僕は戸田さんの連絡先を知らないから、職場で待つしか方法がなくて」
結城がちらっとこちらを見て
「びっくりしたでしょう」
と訊ねた。
「はい、びっくりしました。あの、私に何か御用ですか?」
「戸田さんには、いろいろ親切にしてもらったし、お腹が減ると何かくれるし」
結城が笑う。
「お礼がしたいんですけど、買って返すのじゃ味気ないと思って。それで……」
「そんな、たいしたことはしてないですから、気にしないでください」
奈々子は首を振った。
「いや……えっと、うん」
結城がなぜかいいよどむ。
「?」
「戸田さんはおつきあいしてる人います?」
「は?」
結城の言葉に心臓がどきんと跳ね上がる。
「い、いえ」
奈々子は下を向いた。
「じゃあ、好きな人は?」
「いません、今は」
「それなら、僕がちょっと誘っても、怒られることはないですよね」
「誘う?」
「今週の日曜日、映画を見に行きませんか? 最近はめったに行かなくなったって言ってたので、行くチャンスですよ」
「はあ」
結城はハンドルに腕を置き、その上に頭をのせ、奈々子を見る。
コインパーキングの照明が結城の頬を照らしている。
現実の人間とは思えないほど美しかった。